「被害者バッシング」とは、被害者側の行動が責められる現象ですが、心理学では1つの心理的メカニズムが解明されています。何か事件が起こった時、それが起こる原因として、その人自身のせいであるという「内的な原因」と、相手側の都合で起こる「外的な原因」の2つの原因があります。ラーナーは、「人は世界が公正に成り立っていると信じたがっている」と指摘し、「公正世界信念」という考え方を示しました。つまり、「よい事」をしている人は報われて、「悪い事」をしている人は罰を受けるという考え方です。しかし、時に理不尽な事態が生じて、人々の「公正世界信念」が脅かされることがあります。ラーナーは、こうしたとき人々は公正を回復したいと考え、「公正世界動機」が発動していると表現しました。被害者においても同様で、過去にさかのぼって罪のない被害者の落ち度や理由を考える「逆向き推論」により、「被害者バッシング」が起きます。とりわけ「公正世界信念」の強い人が被害者をバッシングする傾向があり、被害の理由を考えることで、自分自身と切り離したいというモチベーションが働きます。このように、被害者に落ち度を見出す「被害者バッシング」と、加害者を「非人間化(dehumanization)」あるいは「悪魔化(demonization)」することで、人は安心を取り戻していく1つの心理的メカニズムだと考えることができます。このような心理的メカニズムを知ったうえで、私たちは無批判に簡単に他者に流されず、自分の頭で考える、「付和雷同せず、和して同ぜず」という心がけが大切です。これは大学教育で重要な力点であり、みなさんが心理学を学ぶ1つの意味でもあるのです。

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北村 英哉教授社会学部 社会心理学科

  • 専門:社会心理学、感情心理学、人格心理学
  • 掲載内容は、取材当時のものです