高塩濃度の環境は、微生物が生き抜くうえでは厳しい環境です。しかし、微生物の中でも耐塩菌・好塩菌は、海水の中やみそ・しょうゆなどの発酵食品、さらに塩濃度が高い死海、岩塩層の中でもすくすくと育つことができます。微生物は、「非好塩菌」(耐塩菌を含む)と「好塩菌」のグループに分けられ、さらに好塩菌は、塩濃度によって「低度好塩菌」「中度好塩菌」「高度好塩菌」の3つに分類することができます。応用極限微生物学研究室では、過酷な環境でも生存できるさまざまな耐塩菌・好塩菌を探索し、廃棄物処理や排水処理に活用するための研究に取り組んでいます。例えばしょうゆもろみ粕は、しょうゆを生産する過程で発生する副産物であり、日本国内で年間約10万トン発生しています。そこで、しょうゆもろみ粕の減量・再資源化を実現するために、耐塩菌を用いて分解し、さらに分解産物の中から有用な菌の探索に取り組んでいるのです。また、高度好塩菌を探索する研究では、世界で初めて新規高度好塩菌の分離に成功し、それをHaloarcula japonica(三角形平板状形態の高度好塩性古細菌)と名付けました。この古細菌は、非常に過酷な環境でも生存できる「極限環境微生物」の性質を持っています。2019年にNASAは、木星の衛星エウロパの表面に食卓塩のような有機化合物が点在し、水蒸気が検出されたことを発表しました。これらのことから、耐塩菌・好塩菌は、地球上に限らず他の天体にも存在する可能性が高いと期待されています。みそ・しょうゆなどの身近なところから地球上の極限環境、宇宙に至るまで、今後ますます耐塩菌・好塩菌の研究が進み、微生物の計り知れない力が解明されていくことでしょう。

pf_takashina.jpg

高品 知典准教授生命科学部 生物資源学科 応用極限微生物学研究室

  • 専門:極限微生物、特に好塩性微生物および耐塩性微生物の探索と利用
  • 掲載内容は、取材当時のものです