東洋大学の井上円了記念博物館が所蔵する原史料の中から、“辻善兵衛家文書”という、棚卸しに使われた勘定帳を見ながら経営の様子を探っていきます。辻善兵衛家は近江商人で、江戸時代中頃に真岡で酒造業を創業し、当時の主人は滋賀県の本宅と栃木県の酒造場を行き来しながら長く酒造を営んできました。昭和4年の帳簿を見ていきましょう。表紙には「店卸勘定帳」と縦に書かれていますが、「店卸(棚卸)」とは、定期的に在庫品や資産、負債の状況を算出することで、帳簿の中は横に見ていく形態の「横帳」となっています。1ページ目には、「芽出度始め(めでたくはじめ)」と書かれ、良い結果が出るようにという願いが込められているのでしょう。数字がたくさん出てきますが、1は「壱」、2は「貳」と旧字で書かれています。“190円 伊丹樽 146本 有物”と書かれているのは、「伊丹樽」という酒樽が146本あり、その評価額が190円であるということです。ページの最後にその合計金額が書かれていて、ページごとにいろはで分類されています。「以(い)」は、酒造りに必要な道具類の項目、「呂(ろ)」には白米や清酒、石炭や薪炭などの酒造場にあるさまざまな物品が記載されています。貸付金などを計算する項目や負債金額の項目もあり、これらを合わせて差し引きして出た額が資産となるわけです。さらに「本金調べ」という項目があり、1年前の結果に1割上乗せしたものを翌年の目標とし、今年資産と比較して利益の上がり具合を算出していることがわかります。江戸時代の中頃から書き続けられたこうした帳簿を丁寧に読み解いていくと、当時の経営の様子や変化が具体的にわかってくるのです。

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大豆生田 稔教授文学部 史学科

  • 専門:日本近現代史
  • 掲載内容は、取材当時のものです