露出型の電線は、修理しやすいという「保全性重視型」です。一方、埋没型の電線は、配電と情報伝達の確実性という「信頼性重視型」です。それぞれに利点がありながら、なぜ電線電柱は埋めたくなるのでしょう。
「地震などの災害時に危険」と言われますが、電柱が倒れる危険性よりも、露出式の復旧の速さを主張する方が現実的です。では、景観を損ねるからでしょうか。授業で紹介された電線電柱の写真は、景色に溶け込んでいました。電話線や送電線の整然とした並びは壮麗で、ディテールにいたるまでプロの仕事が光ります。他国の過密すぎる電線に比べて日本の電柱は機能美すら感じられ、露出型の成功例とも言えます。それでも電線電柱がうるさく感じるとしたら、それは電線から横に出ている線がそう感じさせるのでしょう。しかしその線の先にあるのは、私たちの家です。つまり私たちの日常生活の積み重なりが、電線の過密を生んでいるのです。
ヨーロッパの街並みにならった埋没型よりも、電線をきれいに配線することで生まれる独特の世界のほうが、ずっと面白いと思いませんか? デザインは「問いの発見」が大切です。答えはありませんが、こうした観察や議論が人間の環境全体に対する視線を深めていくきっかけになれば幸いです。

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内田 祥士教授福祉社会デザイン学部 人間環境デザイン学科

  • 専門:建設設計、営繕論、近代日本建築史
  • 掲載内容は、取材当時のものです