脂質は重要なエネルギー源となるだけでなく、ホルモンや細胞膜、核膜を構成したり、皮下脂肪として臓器を保護したり、脂溶性ビタミンの吸収を促すなど、体にとって重要な役割を担っています。また、脂質の中でもn-3系高度不飽和脂肪酸であるイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)の摂取は心血管疾患の発症リスクを低下するほか、アレルギー反応を抑制することも明らかになり、市場でもEPA・DHAを含むサプリメントを頻繁に目にするようになりました。
当研究室ではこのような脂質の食品機能に着目して研究を行っています。中でも水産物由来の脂質を取り扱うことが多いです。水産物由来脂質は特徴的な構造を有するものが多く、その抽出・精製法を確立するほか、構造解析を行うことで、そのユニークな構造が生体内に及ぼす影響について研究を行なっています。例えば、ホタテガイの中腸腺や卵巣などの内臓は有害物質を含むため、廃棄されています。しかしながら、このホタテガイ内臓にはn-3系高度不飽和脂肪酸やリン脂質といった健康機能性成分が多く含まれています。我々はホタテガイ内臓から脂質成分を抽出し、健康機能性成分を高含有する「ホタテオイル」を精製しました。その後、動物実験や細胞実験という手法を用いて、ホタテオイルの有する食品機能(脂質代謝促進効果・アトピー性皮膚炎改善効果・認知症抑制効果など)を研究しています。
このような研究を遂行することで、水産物由来脂質の新規食品機能について解明し、市場に新しい健康機能性食品素材を生み出すことができます。また、水産廃棄物を有価物に変換することが可能になり、環境問題に貢献できます。特に、近年国際的に取り組んでいるSDGsには「すべての人に健康を」「海洋資源の保全」という目標がありますが、本研究の完遂はこれに多大な貢献ができると考えています。