食環境科学科

生きるを支える、次世代の食をつくる。

醸造学研究室(西田洋巳 教授)

蔵付き微生物の機能解明とそれを利活用した日本酒造り

日本酒製造の酒蔵には長年にわたって住み着いている微生物が存在しています。それらの微生物は蔵付き微生物と呼ばれています。酒蔵を移動したり、新しく建て替えたりすると以前の日本酒の味や風味が損なわれる場合があり、蔵付き微生物の日本酒の味や風味への関与が考えられています。現在、多くの酒蔵で使用されている清酒酵母は日本醸造協会が管理、維持している酵母ですが、それらの多くはもともと特定の酒蔵の蔵付き酵母でした。また、生酛(山廃)造りで使用される乳酸菌についても蔵付き乳酸菌が使用される場合があります。しかし、酵母や乳酸菌以外の蔵付き微生物についての研究や報告はほとんどありません。そこで、本研究室では、蔵付き微生物、特に蔵付きバクテリア、の多様性およびその役割(機能)について明らかにすることを研究目的としています。また、蔵付き微生物の機能を利活用し、これまでになかった味や風味を持つ、より美味しい日本酒を造る方法を提案したいと考えています。西田が前任の富山県立大学において、成政酒造の蔵付きバクテリアとして、コクリア属のバクテリア株を分離し、そのバクテリアを吉乃友酒造(コクリア属のバクテリアを蔵付きとして持っていない)の日本酒造りにおいて添加しました。コクリアは乳酸菌の仲間ではなく、放線菌の仲間です。このコクリア株の添加の有無だけの違いで日本酒を造ったところ、それらを比較する試飲の結果、添加の方が美味しいと応えた人は試飲していただいた総数の9割以上でした。また、味覚センサーによる測定においても成政酒造の蔵付きコクリア株の有無で違いが生じていました。この結果は、蔵付きバクテリアが日本酒造りの主役である清酒酵母と相互作用を行いながら、日本酒の品質に影響を及ぼしていることを示しています。本研究室では、その機構を明らかにし、それを利活用したこれまでにない新しい日本酒造りを提案することを目指しています。

この研究室を希望する方へ

一般的に日本酒の酒蔵は古い歴史を持つものが多く、例えば茨城の須藤本家は1141年の創業ですので880年余りの歴史を持っています。古来より、日本酒および酒蔵は人々に受け入れられており、日本の伝統文化となっていることを意味しています。また、様々な祭りや行事において日本酒は欠くことができません。また、製造技術も高く、ユニークであり、例えば「火入れ」と呼ばれる低温殺菌は、パスツールが低温殺菌を提唱した300年以上前より日本では「火入れ」が行われていた記録が残っています。日本酒造りは日本の風土、環境に適した微生物を使用し、地域の自然とともに維持、継承されてきました。米と水を材料として、麹菌と酵母の微生物の力を使って造られる日本酒造りは環境への負荷をかけずに成立するものです。「食」と「環境」について「科学」を通して研究を行いたい食環境科学部の学生に期待しています。