「コンパクトシティ」の考え方の背景には、昔の人口増加から現在の人口減少、高齢化の問題までが密接に関わっています。人口増加時には多くの住宅街が郊外に建ち、車を使って生活するため、人口が郊外へ散らばっていきました。しかし後に人口が減少し高齢化した際に、病院や学校が閉鎖し、鉄道やバスが廃止され、社会の活力が低下するといった問題が生じました。このため、密度が高く便利で快適に生活しやすい都市に街をつくり、それぞれを公共交通でつなぐことで、高い生活の質と低い環境負荷の両立が望める「コンパクトシティ」の形成が進められています。しかし、実現までには時間がかかります。2050年までにCO2排出量を削減するなどの社会的な要請には間に合わないため、並行して、情報通信技術を使ってコンパクトシティのメリットを“実質的”に進めることで、より早い実現を目指そうという考え方が「バーチャルコンパクトシティ」です。紙媒体から電子媒体への移行、建物を持たないバーチャルオフィスやインターネットショップの充実、定期通院に代わる遠隔医療や、電子マネー、在宅勤務、シェアリングエコノミーなどで、暮らしとビジネスが変化し、便利さや移動の減少などが実現します。また、一人暮らしの見守りや、在宅勤務による子育て・介護支援により、離職防止や高齢者の生活支援といった社会問題への対応も可能です。大きな可能性を持つバーチャルコンパクトシティは、情報通信技術やIoTの発展により、すでに暮らしの中で進行しており、急速な社会の変化が起きています。これらをまちづくりの中にどのように組み込んでいくか。それが、今後の課題なのです。

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花木 啓祐元教員情報連携学部 情報連携学科

  • 専門:環境学、環境動態解析、環境影響評価・環境政策、環境技術・環境材料、土木工学、土木環境システム
  • 掲載内容は、取材当時のものです