糖は、生命が生きていくうえで欠かせない物質だ。「単に甘いだけではない糖をひもとけば、生命の進化の過程が見えてくる」と語る宮西伸光准教授の研究は、「糖鎖」が生命にどのような関わりを持つのか、ということだ。生命の神秘に挑む学生たちとともに、糖鎖が語りかけてくるメッセージを受け止めながら、生命の進化の謎に挑んでいる。

生体内で重要な役割を果たす糖鎖

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「糖」と聞くと、みなさんは「甘いお菓子」や「エネルギー源」としてのイメージが強いかもしれません。しかし、私たちが研究しているのは、糖質がいくつも連なった「糖鎖」と呼ばれるものです。糖鎖が生命とどのような関わりをもつのかを解明していくことにあります。

糖質は大きく3つに大別されます。1つ目はエネルギー源としての糖。人間や動物はでんぷんを消化してエネルギー源としますが、このでんぷんにも糖が含まれているのです。2つ目はセルロースのような身体の支持体としての多糖類です。糖は単体では単糖類と呼ばれ、2つつながると乳糖などに代表されるような二糖類になり、さらに糖がいくつもつながると多糖類となります。そして3つ目は、細胞どうしの情報を伝達する物質としての糖鎖。インフルエンザウィルスは、細胞の表面の糖鎖の違いを見極めて感染してきます。本来、鳥インフルエンザはヒトに感染しませんが、それはヒトと鳥の糖鎖が違うからなのです。

私が研究している「糖鎖」は、DNAやタンパク質に並ぶ「第3の生命の鎖」として、生体内できわめて重要な役割を果たしています。最近では鳥とヒトの両方に感染する新しいウィルスが出現し、それらが爆発的な感染力を獲得するのではないかと不安視されています。つまり、ウィルスが標的とする糖鎖を解析することは、新しい薬の開発にもつながるのです。

進化のカギは糖鎖が握っている

「糖鎖」が語りかけてくる熱いメッセージを解読したくて、私はこの分野の研究に飛び込みました。目標としているのは、生命進化の謎を解き明かすこと。生命の進化と糖鎖は、実に深い関わりがあるのです。

私の研究室では「糖の本質に関する研究」を行っています。しかしながらそれは、私たちが生命の神秘を知りたくて、その探求の糸口が、たまたま「糖」というものであっただけだろう、と思う人がいるかもしれません。ですが、それはちがいます。私たちは、これまでの先駆者である多くの糖質関連研究者たちが得た膨大な「糖」に関する知見から、そこにはきっと生命誕生の瞬間や、一様ではない生命進化の場面の一つ一つが「糖進化」という言葉に置き換えられるかどうかはわかりませんが、そこには生命の神秘を知るに最も相応しい理解が、実に繊細かつ精密に、如実に存在していると信じてやまないのです。

太古地球において、「糖」と呼ぶにふさわしい形態のものは、おそらく、さまざまな状態で存在していたと考えることができます。そのような糖が、ある時、生命体(と呼ぶに相応しい形態のもの)によって取り込まれ(食され)、それらをより使いやすい状態に変換させたり、結合させたりして利用されるようになった。この、生命体(と呼ぶにふさわしい形態のもの)が外界から物質(エネルギー)を取り込んだ行為、つまり、その瞬間こそが「食」であり、食は生命の本質であると言えます。

そしてこれは、私たちの食環境科学科のテーマにも通じます。生物が最初にエネルギー源として取り入れたと考えられる物質こそが、糖なのではないでしょうか。その糖が生命の進化の過程のさまざまな場面において重要な役割を果たすようになったと考えると、それは当然なのかもしれません。そして、糖鎖を解析すれば、生命の進化の過程を垣間見ることができるかもしれません。

糖(の研究)は甘くない!?

「知の好奇心の大切さや、新しくモノゴトの理を理解する面白みを、学生たちに伝えたい」という想いで私は学生たちと一緒に研究しています。よく「糖は甘いものもあれば、甘くないものもある。けれど、糖の研究は常に甘くない!」と話していますが、糖とは生命のあらゆる場面で活躍する、不可欠な物質です。そのため、糖を研究することは、社会への貢献にもつながります。たとえば新しい薬の開発や機能性食品の開発などに研究を活かすことができるのです。

高校までの勉強は、先生から習うことばかりだったかもしれません。それは、高校までの授業が「学習」というものだったからです。しかし、大学での学びは違います。自分が研究したいと思うテーマについて積極的に取り組み、突き進んでいくモチベーションと能力を養うところ、「学習」ではなく「学問」を行うところこそが「大学」なのです。新しいこと、誰もやっていないことに取り組むのは、誰でも怖いと思うかもしれません。でも、そこで恐れずに、興味を持った分野に積極的に挑戦し、研究に没頭してほしいと思います。私の研究室では、「こんなことを研究していたら、おかしいかもしれない」なんて感じる必要はありません。自分の発想や気づきを大切に一緒に突き進んでいきましょう。夢を持って頑張れば、必ず何かが見えてきますから。

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宮西伸光准教授食環境科学部 食環境科学科

  • 専門:糖鎖生物学、バイオセンサ

  • 掲載内容は、取材当時のものです