独立栄養生物である植物は、その生命を維持するために様々な物質生産系を発達させてきました。その中には糖、アミノ酸、脂肪酸や核酸塩基などといった生育・繁殖のために必須となる化合物だけでなく、種々の環境ストレスや病虫害や草食動物から身を守るため、さらには他の生物との情報交換を行うための「二次代謝産物」と呼ばれるそれぞれの種に特異的な化合物群も含まれています。一方、従属栄養生物であるヒトは、植物が生産したさまざまな代謝産物を、衣・食・住だけではなく、医薬品・化粧品・色素・香辛料などとして利用しています。さらには、これらの有用物質の生産性を向上させることを目的として、紀元前より数多くの植物を品種改良し、また、新たな植物資源の探索を行ってきました。しかしながら、近年の地球規模の生態系の悪化により、植物の生育環境の破壊による資源枯渇が問題となっています。
当研究室では、これらの貴重な植物資源を維持し、その有用成分の効率的生産系を確立することによって、ヒトの健康維持に貢献することを目的として、植物バイオテクノロジーを取り入れた植物由来有用物質生産制御について研究を行っています。近年は、フラボノイドやリグナン、テルペンといったさまざまな成分が注目を集めていますが、我々は、それらのなかでも、プレニル基という脂溶性の高い官能基が導入されることによって生理活性が増強されたポリフェノールの生合成に焦点を当てて研究を行っています。ムラサキという絶滅危惧植物、クララやイカリソウなどの薬用植物やアシタバなどの山菜類などをターゲットに、天然物化学や植物生化学的観点から研究を行っています。
また、「美味しく健全な野菜を食べて健康に」をモットーに、付加価値の高く美味しい野菜の栽培環境の整備や機能性成分の探索にも取り組み、我が国における食糧自給率増加にも貢献したいと考えています。