植物は「特化代謝産物(Specialized metabolites)」と呼ばれる多様な機能性二次代謝産物を生産し、過酷な環境を生き抜いています。これらは植物に競争力を与え生存戦略に不可欠なだけでなく、人類の健康や産業にも寄与する貴重な天然資源です。当研究室では、テルペノイドやフラボノイドを中心としたイネが生産する特化代謝産物に着目し、その生合成経路と制御機構の解明を通じて、環境低負荷型農業を実現する基盤技術の構築を目指しています。いわば『植物の生きる知恵を借りて、地球と呼吸を合わせる農業』の実現に向けたアプローチです。
具体的にはイネをモデル材料に、転写制御因子の機能を紐解くことで、病虫害抵抗性に重要な代謝産物(特に「もみ殻」に豊富な天然ジテルペン「モミラクトン」)が、ストレス応答的に生産誘導される分子機構を明らかにします。また、モミラクトン生合成遺伝子群は、高等植物では稀な「生合成遺伝子クラスター(Biosynthetic Gene Cluster (BGC)」を形成しており、野生イネのゲノム解析からその構築に至る進化過程の解読にも挑戦しています。
応用面では、モミラクトンの抗菌性やアレロパシー等の多彩な生物活性を活かした「植物バイオーム(ファイトバイオーム)」制御技術の開発を進めます。モミラクトンが周辺生態系に与える影響を分子レベルで解明するとともに、企業等との共同研究で効率的な製造プロセスの確立を目指します。寄生雑草(オロバンキ、ストライガ)や有害線虫等に対する抑制効果についても、実環境に近い条件での検証を国内外で実施し、成分濃度とバイオーム変動の相関解析に基づく最適な土壌設計プロトコルを策定し、研究室内での基礎的な知見を、社会実装を見据えた『地球と呼吸を合わせる農業』のプロトタイプへと繋げます。