生物資源学科

植物と微生物に学び、未来をつくる

地球環境科学研究室(長坂征治 教授)

イネ科植物の鉄吸収機構解明

生物にとって、鉄は必須微量栄養素です。植物体内の鉄は、光合成系や呼吸系の電子伝達、様々な酸化還元反応に関与する重要な元素です。そのため、植物の鉄吸収機構については、作物の増収や鉄欠乏症状である萎黄症(クロロシス)の発症しやすい不良土壌でも生育可能な鉄欠乏耐性植物の創製など、農業への貢献を目的として研究が進められています。さらに、近年では鉄吸収機構の研究を発展させ、鉄の蓄積量を高めた機能性食品として開発させた形質転換イネの報告がなされています。これは鉄欠乏を原因とする貧血症状が問題となっている地域で、食品から鉄を摂取することで症状を改善するための方策に用いられる植物であり、植物鉄吸収機構研究の結実の一つです。イネ科植物の鉄吸収機構は、特有の鉄キレーターであるムギネ酸類が担っており、植物はムギネ酸類を根から分泌して根圏の鉄を鉄ムギネ酸錯体として可溶化して根の細胞内へ吸収しています。ムギネ酸類の生合成、吸収機構に関わるタンパク質群が明らかになりつつありますが、ムギ根酸類の分泌の分子機構についてはほとんどわかっていません。今後、高い鉄欠乏対性能、高い鉄蓄積能をもつ植物を創製するためには、ムギ根酸類の分泌機構の解明が重要な鍵を握っています。そのために、細胞の形質転換,遺伝子やタンパク質の発現解析、機能解析など分子生物学手法だけでなく、共焦点顕微鏡での観察や電子顕微鏡を用いた微細構造の観察などの形態観察手法をあわせることで細胞内でのムギネ酸類の生合成部位、輸送、分泌経路の分子機構の解析を進めています。

この研究室を希望する方へ

植物が好き、研究テーマに興味があるということも大切ですが、それよりも積極性や実験に真摯に取り組む姿勢を重要視しています。卒業研究は、講義や演習、学生実験とは異なり、だれも説明できない生命現象を解明することが目的です。だれも説明できないということは、受け身の姿勢では何も解決せず自らが研究を行わなければ進展しないということです。さらに研究は仮説と検証を繰り返しであり、期待通りの結果が得られない場合には、実験内容について考察、議論する、方針変更を検討する、あるいは参考文献を漁って他の実験法を検索するなど地道な作業を経なければ前に進めません。時にはそれまでの実験を否定するような必要さえでてきます。だからこそ期待通りの結果が得られた時や新たな発見をした時の興奮は極上なものになり、その過程と成功体験こそが本人の成長につながるものと考えます。この体験を希い、そのための努力が継続できる学生の入室を待っています。