自然界で植物は様々な微生物に囲まれて生きています。その中には植物に害をなす病原菌も多く存在し、植物は生存のために病原菌の侵入を防ぐメカニズムを持っています。それと同時に、土壌中には植物にとってプラスの働きをしてくれる菌、いわゆる「共生菌」も存在します。植物は共生菌を体内に招き入れ、積極的に共生関係を築くことが知られています。それでは、植物はどのように病原菌と共生菌を見分けているのでしょうか?その明確な答えは未だ得られていません。本研究室では菌根菌と根粒菌という2つの共生菌を使って、共生応答の開始メカニズムに関して研究を行っています。
菌根菌は糸状菌の仲間で、土壌中に広く菌糸を広げてリンを集めてくることで、植物の成長を促進します。菌根菌共生が成立すると、樹枝状体と呼ばれる構造が細胞内に作られますが、その構造にそっくりなものが4億年前の化石から見つかるほど、菌根菌共生の起源は古く、また陸上植物の70%以上と共生関係を築くことが出来るほど宿主範囲は広いです。当研究室では、イネを用いて菌根菌共生の開始メカニズムの解明を目指して、研究を行っています。
根粒菌は、共生すると宿主植物の根に作られた根粒の中で、窒素を固定して植物の成長を助けます。農作物の収量を上げるため、化成肥料がよく用いられていますが、工業的窒素固定により窒素肥料を作るために、地球全体の電力消費の2%近くが使われています。この大量のエネルギーを要する反応を、根粒菌は簡単に行うことが出来ます。しかし、根粒菌共生は宿主範囲が限られており、主にマメ科植物でしか見ることが出来ません。
パラセポニアという熱帯の樹木は、マメ科ではないにも関わらず、根粒菌共生をすることが知られています。しかし、近縁種のトリマには根粒菌は共生しません。この2つの植物を比較して、非宿主植物における根粒菌共生能の付与を目指し、特に共生応答の開始の部分に関して様々な研究を行っています。