生物資源学科

植物と微生物に学び、未来をつくる

植物生理学研究室(廣津直樹 教授)

植物の環境応答メカニズムの解明、および植物の環境適応力を活かしたイネ新品種の育成

写真1 水中でも光合成して生育できる水陸両生植物Hygrophila polysperma

植物は大きな移動能力を持たず、いつも温度や光など環境の変化にさらされています。一方で、私たちの食料や使用するエネルギーの多くは、植物が光合成によって固定した太陽光のエネルギーであり、すべての生命は植物の同化能力に依存しています。植物がどのようにしてこのような能力を発揮しているのか?また植物のポテンシャルをさらに引き出すことで、私たちの生活にさらに役立てることは出来ないか?ということを考えて研究を行っています。

植物が周囲の環境変化に対する柔軟性を示す例として、いわゆる「水草」に注目しています。植物の中には、空気中でも水中でもどちらの環境でも生育することができる水陸両性植物が存在します。この水陸両生植物は、大気中でつける葉(陸上葉)と水中用の葉(水中葉)を環境に応じて作り替えて生育しています。これまで、水中葉は葉の形が変化するだけではなく、光合成の代謝経路をダイナミックに変化させていることを明らかにしてきました。例えば水陸両生植物の1種Hygrophila polysperma(写真1)は陸上ではC4型光合成に近い光合成、水中ではC3型光合成を行います。一見すると止まっているようにも見える植物が、実は細胞内の働きを柔軟に変化させて環境に対応することができるという点に興味を持ち研究を進めています。

写真2 屋外で栽培試験中のイネ遺伝資源

環境応答メカニズムの研究と並行して、植物の能力を私たちの生活にさらに役立てることを目指した研究も行なっています。世界人口の約半数が主食としているコメに注目し、イネバイオマス生産能力を高め、収量を増加させることを最終的な目標としています。特にイネの遺伝資源を利用することで、遺伝子組み換えによらない手法で従来よりも短期間にイネの新品種を育成することを目指しています(写真2)。また、コメの栄養品質にも着目し、ヒトにとって不足しがちな亜鉛や鉄などのミネラルの吸収効率を高めるための研究も行っています。このように、イネのポテンシャルを引き出し、私たちの生活を豊かにするような研究を引き続き進めていきたいと考えています。

この研究室を希望する方へ

研究という分野では、「100%正解」といった明確な答えはありません。また、「これをやればすべてが分かる」といった明確な道筋もありません。研究するために一番明確で、そして大事なことは、何を「おもしろい」とか「重要だ」と感じるか、研究者の心だと思います。あなたは最近、生き物(の現象)に「おもしろい」と思ったことはありますか?またその理由(How?とWhy?)を考えてみたことはありますか?

研究室で研究を始めるときに皆さんに望むものは、生命科学の基礎知識はもちろんですが、生命現象に対して「おもしろい」「なんでだろう」と感じることのできる心です。研究室では、その疑問を明らかにするための科学的アプローチの仕方、例えば、自ら仮説をたてたり、それを実験で証明したりする力を身につけます。もちろん、これらは一朝一夕で身に付くものではありません。明確な道筋が見えない課題にじっくりと向き合うには忍耐力が必要とされますが、「おもしろい」と感じる心はいつも道を照らしてくれます。