生物資源学科

植物と微生物に学び、未来をつくる

糖質材料創成学研究室(長谷川輝明 教授)

ガン転移や各種炎症の引き金となる「糖鎖間相互作用」のメカニズム解析

人間は数十兆もの細胞が集まって構成された多細胞生物です。これらの細胞はお互いに接着し、情報をやりとりしながら、「人間」という複雑な生体システムを維持しています。つまり、「細胞と細胞はどのように接着しているのか」「細胞と細胞はどのように情報をやりとりしているのか」といったメカニズムを明らかにすることは、人体の成り立ちを理解する上で必要不可欠なものと言えるでしょう。また、リウマチなどに代表されるような各種炎症や、ガンの転移など、望まない細胞接着がきっかけとなって引き起こされる様々な疾患も数多く知られています。細胞と細胞の間の接着現象のメカニズムが解明できれば、これらの疾患を治療・予防する手段が見つかるかも知れません。

実はこれらの細胞接着を引き起こすために最初に起こるステップが、「糖鎖間相互作用」であるといわれはじめてきました。糖が複数個つながった化合物をオリゴ糖鎖といいますが、細胞表面には複雑な構造のオリゴ糖鎖が多数存在しています。これらのオリゴ糖鎖が、隣の細胞表面に存在するオリゴ糖鎖と選択的に相互作用(接着)することにより、その後の細胞接着が引き起こされるらしいのです。しかし残念ながら、「どのような構造のオリゴ糖鎖とオリゴ糖鎖が相互作用するのか」や、「相互作用するにはどのような条件(各種イオンなど)が必要なのか」については、まだほとんど明らかになっていません。オリゴ糖の構造が極めて複雑であり、詳しい分析が困難であることが主たる原因ですが、その他にも細胞膜自体が多種類の構成成分からなる複雑系であることや、細胞膜自体が有する流動性などが、糖鎖間相互作用のメカニズム解析を困難にする要因といわれています。

研究室では、この糖鎖間相互作用のメカニズムを詳しく解明することを目的に、様々な人工分子骨格に糖鎖を導入した「糖クラスター分子」を設計し、有機化学の知識を駆使してこれらを合成しています。我々の人工分子は、分子の内部で糖鎖間相互作用が起これば色が変わったりするようにデザインされており、簡単に糖鎖間相互作用を検出できるようになっています。

この研究室を希望する方へ

「積極性」や「主体性」をもって研究に取り組んでもらいたいです。研究室に配属されるまでにみなさんに受けていただくのは、過去の科学者が明らかにしたことを学ぶための「講義」です。しかし、研究室に配属されてから取り組んでもらうことは、いままで誰もやったことの無い学問領域を探求するための「研究」になります。地図も無い未開の大地を探検するようなものであり、積極性や主体性が無くては何も得る事ができません。みなさんが主体性をもって実験に取り組めるように、私はあまり細かいことを言わないようにしています。多少間違ったことをしていても、危険でない限りはそのまま続けさせることもしばしばです。間違いであっても、自分の手で行ったことであればその経験が自分の力になると思うからです。また、私は学生を一方的に指揮して研究を遂行させるのではなく、学生を「同僚」「協力者」として、対等な立場で意見を交わせるような雰囲気を作ることを心がけています。私の言うことだけをそのままやっていたのでは、私が考える以上の結果は生まれてきませんから。