多次元臨床医学は造語です。臨床医学の研究を時間的・空間的変化を考慮しながら進めていこうという考えに起因します。
我々は生まれてから死ぬまで、様々な外的環境の変化にさらされます。ライフステージによる生活環境変化(進学、就職など)、感染症をはじめとする病気への罹患(病気になることのみならず、治療に用いた薬剤や治癒後の変化)、食環境の変化(成長・老化に伴う食事内容の変化、嗜好、食品頻添加物など)、人間関係(家族、友人、同僚など)、余暇時間の使い方(スポーツ、旅行など)など、多岐にわたります。これらの変化が我々の内的環境(臓器の働き、ホルモンの働き、神経の働きなど)に影響を与え、心身の健康や生命予後を変化させます。時として、子供の頃の環境が老年期の健康を左右することもあり、このような時間的・空間的に離れた現象同士を結び付けて考えることは大変難しいです。そのため、従来の研究は慢性変化といっても数カ月程度の変化を検証するものが大半です。一部のコホート研究では多くの人の健康状態などを数年にわたって観察するものもありますが、検証するべき現象はまだまだたくさん残っています。