「カレーってどうしてあんなにスパイシーなんだろう?」と思ったことはありませんか?あるいは、味噌汁や和食が「素材の味を活かす」と言われるけれど、それってどういうことなんだろう、と考えたことはありませんか?私が取り組んでいる研究では、こうした身近な料理を「進化」や「ネットワーク」という視点から見つめ直しています。料理という身近な営みを、進化やネットワークという視点から見直すことで、人類の知恵のかたちを探っています。
例えば、アメリカの生物学者シャーマンとビリングは、世界36か国・約4500の肉料理レシピを調べました(Sherman & Billing, 1999)。その結果、暑い国ほどたくさんのスパイスが使われていて、中には10種類以上のスパイスを一皿に入れる国もありました。インドやタイのカレーがそうですね。なぜそんなにスパイスを入れるのか?彼らは「それはスパイスに殺菌作用があって、暑い場所でも食中毒を防ぐためではないか」と考えました。つまり、美味しいだけでなく「生き延びるため」に必要だった可能性があるのです。
一方、日本の料理や東アジアの料理はどうでしょう?食材の風味を大切にする特徴には別の「味のルール」があるのでは?そう考えた研究者たち(Ahnら, 2011)は、5万以上のレシピと数百種類の食材を使って「風味のネットワーク」を作りました。すると、日本や韓国の料理では、わざと香りが似ていない食材を組み合わせて「コントラスト」を楽しむ傾向があるそうです。
このように、「料理」という行為の中にも文化や環境によって異なる「ルール」や「進化の道筋」が存在します。そしてそれは単なる偶然ではなく、人類が長い時間をかけて選び、受け継いできた「知恵」の結晶なのです。
フードデータサイエンス学科で、私はこうした料理の背後にある進化的なロジックや、食材の関係性をネットワークで可視化することに取り組んでいます。料理本やレシピのデータを分析して、「この食材はなぜこんなに使われているのか?」「組み合わせにはどんなパターンがあるのか?」を調べると、世界の食文化の“かたち”が浮かび上がってきます。
「おいしい」には理由がある。そしてその理由は、人類の歴史や環境適応とつながっている。そんな発見ができるのも、大学の研究の面白さです。