真空中に電子を取り出すと聞くと、真空管をイメージし、古くて使われない技術だと思われるでしょう。しかし、それは現在でも最先端の技術の一つです。その方法には、テレビのブラウン管などに用いられる「熱電子放射」があります。固体中の電子をバケツの中の水のイメージで捉えた場合、水をバケツの外にくみ出すエネルギーに熱を利用するのが熱電子放射です。中は真っ赤になるほどの熱を使うため、例えば酸素があると燃えてしまいます。そのため、装置内を真空にしてあるのです。この欠点は、大きなエネルギーが必要なため、消費電力が大きいことです。もう一つの方法として、電界放射顕微鏡(FEM)などで用いられている「電界電子放射」があります。固体の表面に強い電界がかかるとバケツの壁の厚さが薄くなるため、透過して外に出ることができます。この場合も、飛び出てきた電子と気体の分子がぶつかってイオン化し、電子の表面にイオンがついて壊してしまうため、真空が必要です。電界電子放射は熱電子放射と比べて高温にする必要がないため、少ないエネルギーで稼働が可能です。薄型テレビのディスプレイなど、応用もさまざまでポテンシャルも高いのですが、電子源の特性がまだ十分ではありません。今後は、低い電圧で安定して動作し、長寿命な電界電子放射源の開発が必須とされています。

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吉本 智巳教授理工学部 電気電子情報工学科 真空ナノエレクトロニクス研究室

  • 専門:半導体工学、電界放射電子源に関する研究
  • 掲載内容は、取材当時のものです