火山付近や砂漠、深海など、人間や植物などの一般的な生物が生息できない過酷な環境を「極限環境」といいます。地球の大部分を占めるこの極限環境から、実は多数の微生物が発見されています。これらの「極限環境微生物」の分離技術、生理生化学的解析、分類学・生態学的解析、工業的応用などの全てが資源の少ない日本にとっては重要な学問分野となります。

そのような中で、生命工学研究室が着目して研究を進めているのが、「好塩菌」です。好塩菌は、高濃度の塩化ナトリウムを含む環境から分離されます。例えば、ボリビアのウユニ塩湖やイスラエル、ヨルダンの死海、ルーマニアのサリーナ・トゥルダ岩塩坑跡の岩塩層の中でも生きて存在しています。一方で、日本には高濃度の塩環境がほとんどありません。しかし好塩菌は、私たちの生活に身近な市販の天日塩や味噌、醤油の中に存在しているのです。

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生命工学研究室では、約900 種類の市販塩を調査して好塩菌を分離し、その性質を調べています。市販塩から分離した好塩菌は、寒天分解酵素を生産しますが、好塩菌の種類によっては、デンプンやたんぱく質を分解しやすい特性があるなど、さまざまな個性を持っています。実験を重ねて研究を進めていくと、新しい種と推定される好塩菌が発見されます。そのような好塩菌の性質を調べ、私たちの生活に役立つようにしていくことが研究の目的です。好塩菌が生産する酵素の多くは、耐熱性、有機溶媒耐性などの性質を持っており、幅広い条件下での利⽤が期待されています。好塩菌の研究は、⾷品や環境、産業応⽤などのあらゆる分野に貢献する可能性を秘めているのです。

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峯岸 宏明准教授理工学部 応用化学科 生命工学研究室

  • 専門:基礎生物学、生物多様性・分類 農芸化学、食品科学
  • 掲載内容は、取材当時のものです