「人間、元気でさえあれば最後はなんとかなりますよ」と、おだやかな笑みを見せる応用化学科の福島康正教授。化学の力を応用した「健康に役立つものづくり」に勤む一方で、自然をリスペクトするといった側面も持つユニークな化学者だ。そんな自身の姿を見せることで、何かと内向きな学生たちを化学の広い世界に誘っている。

化学のものづくりで病気を予防

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「応用化学」とは読んで字のごとく、「化学を応用して暮らしをもっと良くしましょう」ということをめざす学問です。特にこの学科は理工学部の中にあるので、主に化学をモノづくりに応用する研究に取り組んでいます。

応用化学の切り口はいろいろですが、私は健康の面で貢献したいと考えています。世の中ここまで豊かになったら、最後は健康でさえあれば生きていけると思うのです。

ここ数年、学生と一緒に取り組んでいるのが「ストレス」を数値化するセンサーの開発です。ストレスが貯まると血液中に出てくる物質がありますが、それを簡便に測定できる方法を研究中です。今後、さらに精度をあげて確実に判断できるセンサーをめざしています。

病気になってしまったら、お医者さんにお任せするしかありません。しかし、病気になる前、つまり予防医学で「化学のモノづくり」がお役に立てる場面はたくさんあるのです。

貝の接着剤が歯科医療の未来を変える?

私の主な研究分野は「人工機能性ペプチド」の創製です。ちょっと聞き慣れない言葉ですが、「ペプチド」というのは複数のアミノ酸が結合したもの。私たちの体を作っていくタンパク質もその一つですね。自然界にはさまざまな「ペプチド」が存在しますが、これを人工的に作ってしまおうというわけです。

たとえば、貝の接着剤の開発。一般的な接着剤というのは水にとても弱い性質があって、歯科治療の詰め物が取れるのも、口の中が常に濡れているからなのですね。

ところが貝というのは、水の中でもものすごい力で岩に張りついている。あの接着剤の成分を調べたら、強力で水に強い接着剤ができるのではないかと考えたのです。しかも成分はアミノ酸だから、口の中に使っても安全ですよね。

貝の接着剤の研究も数年目に入ったでしょうか。そう簡単には実現できませんが、考えてみれば貝は数億年かけてあの接着剤を“開発”したわけですからね。しかしそこになんとか追いつこうとするのが、「化学の知」だと思うのですよ。

応用化学はオールマイティな学問

応用化学が実現できることはたくさんあります。それだけに、私がちょっと気になるのは「食わず嫌い」な学生が増えていることですね。たとえば、バイオは興味があるけど、無機化学はどうでもいい、とか。しかし、自分が苦手だとか興味がないと思っていたものにこそ、意外な面白さを発見することは実は多いものなのですよ。

たいした例ではありませんが、私は小中高と絵を描くのが大嫌いでした。ところが40歳をすぎてちょっと描いてみたら、結構好きになりました。化学とはぜんぜん関係ない話ですが(笑)。

とにかく、せっかく大学で化学を学ぶなら、まずは何にでも手を出してみるべきでしょう。高校までの興味や苦手意識なんて、ほんの狭い世界の話。社会に出る前にいろいろなトライアルができるのも、大学で学ぶ意味です。私のほうも手を替え、品を替えで工夫して、学生の興味を広げるような授業を提供していきたいと考えています。

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福島康正教授理工学部 応用化学科

  • 専門:生物有機化学、機能性高分子、人工機能性ペプチドの創製、両親媒性高分子の自己組織化に関する研究

  • 掲載内容は、取材当時のものです