居心地の良い公共施設を設計する工藤和美教授は、建築が持つ大きな力を教えてくれる。時間をかけてつくりあげた建物が、利用する人々の関係や社会のしくみまでも変えていく醍醐味は、設計士だけでなく、企画・施工、マネジメントなど、関わる者すべてが実感できるのだ。なぜなら、建築はチームで取り組むものだからだ。

建築の仕事は設計だけではない

2013060121_img_02

「建築の勉強」というと、設計者を志してやってくる学生が多いのですが、建築業の仕事は設計だけではありません。何もない白紙状態の土地に建築物を建てるわけですから、企画に始まり、構造や材料、環境、デザインなど、実に幅広い分野にまたがっています。それぞれの学生に何ができるか、何に興味を見出すか、可能性を発見して引っ張り上げるのが、実務者としての私の役割。建築学科には「計画・意匠コース」「構造・材料コース」「環境・設備コース」「企画・マネジメントコース」と4つのコースがありますので、学んでいくうちに学生たちは自分に合った進路が見えてくるでしょう。何ごとにも興味を抱き、実際に行って見てみたいと強い関心を示す学生は、建築というフィールドで大きく伸びると思います。

建築は社会のしくみまで変える

私は主に公共施設の設計を行っています。設計というと、形をつくることだけだと思いがちですが、法律・お金・材料の耐久性、構造の適性、表面には見えないことを次々に解決し、それを発注者に説明しなくてはなりません。長期にわたる仕事ですから、大変です。また、建築はアートやオブジェではなく、“実際に使ってみてなんぼ”の世界。完成したものがいくら素敵でも、使い勝手が悪くてはどうしようもありません。「でも、かっこいいでしょ」では許されない。特に、私がやっているのは公共建築ですから。常に先回りして細かくチェックし、使う人の身になって問題点を解消しています。

それだけに、完成して喜んでもらえる、モノが残る、クレームが出ないというのはあたりまえのこと。学校建築においては、子どもたちが喜んでくれるというのが何よりうれしい瞬間。やりがいにもなりますし、学校という施設が社会を変えていく力にもなるのだと実感します。学校は「学ぶ場」ですから、ベーシックな点はおさえます。水道の蛇口を閉めるのを忘れないように、自動水洗だけにはしない。勝手に閉まるクローザー付きドアより引き戸にして、閉めることも学ぶ。そういう点にはこだわります。

建築は、モノをつくるだけの仕事ではありません。建築が介入して初めてできることは、まだまだたくさんあるのです。

発展し続ける実践の場

本学科は今、都市計画にも関わることで大きな注目を集めています。埼玉県鶴ヶ島市の公共施設の老化に対し、新たな複合施設案を提案したプロジェクトには、授業の一環として学生たちが真剣に取り組み、町づくりへの興味を深めていました。次は、企業も交えた新たなプロジェクトを展開する予定です。今度は産官学で実際に建てます。学生たちにとって、本物の建築物をつくるプロジェクトに関われるというのは、とてもぜいたくなことではないでしょうか。

2013060121_img_03

工藤和美教授理工学部 建築学科

  • 専門:建築設計、建築意匠、建築・家具のデザイン及びプレゼンテーション手法

  • 掲載内容は、取材当時のものです