生命科学科

いのちのしくみと、いのちを育む環境を科学する

分子神経生物学研究室(児島伸彦 教授)

学習と記憶の基盤となるシナプス可塑性を司る分子の研究

培養21日目のマウス海馬神経細胞の免疫染色像です。
シナプス前部はシナプシン抗体で緑に、シナプス後部はドレブリン抗体で赤に染まっています。

脳に存在するニューロンはシナプスで互いにつながって神経回路を形成している。神経回路は電子回路のように固定されたものでなく、様々な経験や環境によって柔軟に変更されることが知られている。この神経回路の柔軟さを「シナプス可塑性」という。シナプス可塑性は多くの脳内分子によって支えられているが、まだそのしくみの全容解明には至っていない。そこで、シナプス可塑性の分子メカニズムを解明するために、当研究室では主として以下の2つの研究テーマを掲げている。まず、1) 学習記憶やアルツハイマー病などの認知機能障害と関連深い「ドレブリン」というアクチン線維結合タンパク質に着目し、樹状突起スパイン内でドレブリンと他のシナプス機能分子との相互作用を解析するとともに、シナプス可塑性におけるドレブリンのはたらきを研究している。ドレブリンノックアウトマウスを研究に用いることで分子レベルから個体レベルまでの研究が可能である。また、2) 様々なストレスによって引き起こされるうつ病やPTSDなどの精神疾患や自閉症などの発達障害は、最近の研究によってシナプス機能の脆弱性が関係しているとの証拠が蓄積しているので、これら精神疾患の動物モデルを用いて、行動異常と脳内シナプスの形態異常や機能不全との関連について研究している。これらの疾患と腸内環境とが密接に関連していることも知られており、腸内細菌叢にも注目している。これらの研究は、脳のはたらきの基本原理の理解につながるばかりでなく、様々な精神疾患の病態の理解と治療法の開発に役立つと考えている。

この研究室を希望する方へ

神経科学という学問は複合領域であり、その研究のためには生化学、分子生物学、生理学、薬理学、組織・解剖学、心理学などさまざまな学問分野のノウハウを活用することが必要である。また、分子メカニズムの解明といっても分子レベルの研究だけで事足りるわけではなく、細胞レベルや組織レベル、さらには個体レベルで研究することも必要になる。
“脳は果たして脳の謎に迫ることができるのか?”という命題があるが、生命科学の飛躍的な進歩の中で、脳の謎は残された最後の砦であると言われている。その解明のためには、既成の概念にとらわれない自由な発想とチャレンジ精神が大切である。配属後に着手する実験のテーマは、学生のアイデアを尊重しディスカッションをした上で決定する。実験は必ずしもうまくいくことばかりではないが、実験の過程で思わぬ発見をすることも多い。その楽しさをぜひ体感してもらいたい。