生体医工学科

人々の「生きる」を支える、科学と工学。

量子医工学研究室(本橋健次 教授)

量子ビーム・放射線・プラズマの医療応用

電子、イオン、分子などの極微の粒子は、粒子としての性質だけでなく、波の性質も持っています。粒子は障害物ではね返される一方、波は障害物の背後に回り込むことからも分かるように、粒子性と波動性は相反する性質です。このように相反する二つの性質を持つ極微の粒子を量子(Quantum)と呼びます。

量子はその二面性ゆえにとても興味深い振舞いをするので、様々な分野に応用できます。例えば、量子の代表である電子を応用する学問こそが、20世紀に花開き現代の科学技術を支える電子工学です。一方、現代物理学の発展に伴い、電子以外の様々な量子が次々と発見され、それらを科学技術に応用することが可能になってきています。

当研究室では、量子ビーム、放射線、プラズマといった様々な量子群を医療に応用する研究を行っています。これらはいずれも物質の表面や内部に入り込み、その状態を変える能力を持っています。例えば、電子ビームやイオンビームを高分子や金属に照射すると、高分子本来の柔軟性や金属本来の剛性を損なうことなく、細胞や組織への接着性を高めることが可能です。これにより、従来から広く使われている材料を人工骨や人工臓器の部品として安全に使用することが可能になります。また、プラズマをある種の細胞に照射した場合、正常細胞へのダメージを抑制しながら、がん細胞を効率よく死滅させることが可能です。そのため、新たながん治療への用が期待されています。その他、高エネルギーのイオンビームで人体の奥深くにある腫瘍を狙い撃ちする重粒子線治療や、人体に影響のない低エネルギーの中性子を用いてがん細胞だけを死滅させるホウ素中性子捕捉療法、様々な薬剤を分子サイズのカプセルに包んで病巣へ届けるドラッグデリバリーシステムなど、量子を用いた人への負担が少ない新たな治療法の開発を目標とした基礎研究も行っています。

量子の二面性(キャプション)
プラズマがん治療法の開発(キャプション)

この研究室を希望する方へ

当研究室では、失敗を恐れず新しいことに果敢に挑戦する人を歓迎します。研究のバックグラウンドは物理学ですが、物理が得意でない人も安心して扉を叩いて下さい。基礎から丁寧に指導します。

実験系の研究室ですが、基礎学習にも力を入れています。3年次秋学期の仮配属期間中に放射線物理学の基礎を教科書輪読と実験により学習します。4年生では、週1コマの教科書輪読で原子物理学と放射線生物学を学習します。その他、週1コマの論文輪読と週1コマのゼミでテーマに対する調査や議論を深めることにより、各人が主体的に研究に打ち込める体制を整えています。装置の設計・開発や様々な実験を通じて、研究者・技術者にとって不可欠な論理的思考能力や問題解決能力を育成します。

学内共同研究の他、学外研究所(量子科学技術研究開発機構や核融合科学研究所)との共同研究も推進しており、希望者は学外の研究にも参加できます。