臨床スポーツ心理学は、アスリート一人ひとりに向き合い、その人にとって意味のある支援を積み重ねていく学問です。競技力や技術だけでなく、心の状態や動きに目を向けることで、実力発揮を支えていきます。近年はアスリートのメンタルヘルスが注目され、国際オリンピック委員会(IOC)も指針を示してきました。パフォーマンスの高いアスリートであっても、一定の割合で精神的な問題を抱えていることが報告されています。
対処の方向性として、メンタルヘルスリテラシー教育、心理的スキルの習得、環境調整が挙げられます。ただし、知識の提供だけでは行動変容に限界があり、心理的スキルもすべての状況に有効とは言い切れません。環境調整も、配慮の仕方によっては新たな課題を生む可能性があります。こうした点から、個別の状況に寄り添う視点が重要になります。
心は意識と無意識の二つの側面から成り立っています。意識は自分で考え、コントロールできる領域ですが、無意識は気づかないうちに行動に影響を与えます。心理サポートでは、無意識の部分に気づきを向け、意識できる範囲を広げていきます。
こうした心の働きを踏まえ、実践の場で用いられるのが、心の状態を整え、競技場面で力を発揮するための考え方や取り組みを身につけるメンタルトレーニングです。その中では「気づき」と「意図性」が重視されます。普段自然に行っている行動に目を向け、「なぜそうしているのか」を問い直すことで意味を理解します。その上で、必要な行動を意図的に選び直していきます。自分らしい心の動きを理解し、状況に応じて活用していくことが、実力発揮につながっていきます。