食品は固定されたものではなく、変化を重ねながら受け継がれてきました。その変化の過程は、「コピー」「ミューテート」「セレクト」という三つの要素で整理できます。レシピや製法が繰り返し受け継がれることがコピーであり、材料や工程に新たな工夫が加わることがミューテートです。そうした中から選ばれたものが残っていくことがセレクトにあたります。この流れを通して食品が進化してきたという考え方は、「ダーウィニアン・ガストロノミー」と呼ばれています。
たとえばカレーと味噌汁は、身近な料理でありながら、風味の構造が大きく異なっています。味噌汁では、だしや味噌、具材といった独特の香りをもつ食材が組み合わされ、他の食材と共通する香り分子が少ない構造をとっています。一方、カレーでは、スパイスや具材が似た香り分子を共有し、風味の近い食材同士がまとまる構造が見られます。こうした違いは、レシピがコピーと変化を繰り返し、その中から選び取られてきた結果として整理することができます。
こうした変化の背景には、食材の組み合わせや風味の関係性といった多くの情報が関わっています。個々の材料だけでなく、全体の構造を比較し、違いを整理することで、食品の変化を客観的に捉えることが可能になります。さらに、香り分子の重なり方や配置に注目することで、料理ごとの構造的な違いを読み取ることもできます。こうした分析は、料理を個別の事例としてではなく、変化の仕組みとして理解するために有効です。食品の進化をデータとして扱う視点は、食文化の構造を知る重要な手がかりとなるのです。