フォトリアルなCG画像を作成する際には、撮像系がどのように光を捉え、どのように画像に変換するのかというカメラの特性を理解する必要があります。なかでも3DCGの照明においては、「HDRIとカメラ応答関数の復元」の知識や技術が求められます。
HDRIとは、High Dynamic Range Imageの略で、「実空間の光の情報を忠実に記録した画像」のことです。従来のカメラで撮影された画像は、ダイナミックレンジが狭いため、明るい部分と暗い部分が同時に存在するシーンでは、どちらか一方の情報を失い、黒つぶれや白飛びの現象を起こしていました。一方、HDRIでは明るい部分から暗い部分まで、広い範囲の光を記録して、実空間の光の強弱をより忠実に再現できるため、没入感のある画像を制作することができます。
このHDRIの作成には、「カメラ応答関数」という入出力曲線が必要不可欠です。カメラ応答関数は、カメラがシーンの光を画素値に変換する際の非線形な関係を表す関数のことをいいます。このカメラ応答関数を正確に復元することで、HDRIの画素値は、シーンの放射輝度に比例した正確なものになります。カメラ応答関数を復元する代表的な手法には、コンピュータ・グラフィックス分野の著名な研究者であるポール・デベヴェック氏が開発したアルゴリズムがあります。このアルゴリズムでは、異なる露出で撮影された複数の写真から画素値を抽出し、それらの対応関係を利用して応答関数を計算します。この手法を活用することで、正確な応答関数の復元と、シーンリニアなHDRIの作成が可能となります。
実装については、研究者本人が、Matlab コードを掲載した論文をインターネット上で公開しています。この動画を見て興味を持った人は、ぜひ実装を試みてください。
高橋 信雄教授総合情報学部 総合情報学科 メディア情報専攻
- 専門:コンピューターグラフィックス
- ※掲載内容は、取材当時のものです