日本の法学者の大半は、「比較法」を用いて、外国の法律はどうなっているのかを研究しています。その目的は、他の国を参照することによって日本のルールを知るためであり、日本のルールを変えるためです。基本的に、憲法や立憲主義は、「一つの国家」と密接不可分に関わっています。
しかし、世界では、“一国”を前提とした憲法や立憲主義だけでは解決することができないグローバルな問題が起きています。例えば「ビジネスと人権」の問題がその一つです。具体的な事例として、2021年にウイグル人への人権侵害の懸念から、アメリカで日本企業のシャツが輸入差し止めになりました。現代では、サプライチェーン上で生じる人権侵害について、企業が監督し責任を負うように求められています。日本では、責任あるサプライチェーンなどにおける人権尊重のガイドライン(2022年)が作成されましたが、法的な拘束力はないため、西洋の動きと比べると、今一歩、遅れをとっているのが現状です。
世界の研究者は、「ビジネスと人権」の問題を解決する方法として、「グローバル立憲主義」という視点に注目しています。グローバル立憲主義とは、今までの国内法や国際法という枠組自体を取り払い、地球規模で成り立つ法秩序を考え、そこに法の支配や人権保障などのような立憲的な価値を及ぼしていく思想です。このように地球規模の視野で全体的な統合を目指す試みは、理想的な発想である一方、さまざまな問題も抱えています。例えば、実効性の問題や、他国への介入が普遍性を標榜(ひょうぼう)した暴力になったり、特定の価値観を押しつけたりする危険性もはらんでいます。憲法を通してよりよい世界を実現するために、ナショナルな憲法からグローバルな憲法へ視点を変えながら、地球規模の立憲主義・人権保障の可能性を探っていく必要があります。
大野 悠介准教授法学部 法律学科
- 専門:憲法
- ※掲載内容は、取材当時のものです