『犯罪白書』によると、最も認知件数が多い犯罪は窃盗罪です。窃盗罪は刑法235条で「他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役(拘禁刑)又は50万円以下の罰金に処する」と規定されています。窃盗には、巧妙に計画された被害額が極めて大きいケースもあれば、いわゆる万引きといわれる小さなケースまで、実にさまざまな場面があります。また、被害額や被害物が似たような場合でも、初犯なのか常習犯なのかによっても罪の重さが変わります。

警察、検察を経て、裁判所で有罪判決が出た場合、その犯罪に刑罰が科されますが、「刑罰の正当化」についてはいくつかの考え方があります。その一つが「応報刑論」と呼ばれるものです。これは、犯罪に対する反作用として刑罰を科すことが許されるという考え方です。犯罪行為者が行った責任に見合う反作用と捉えることができます。もう一つは、刑罰が犯罪の予防に役立つから正当化されるとする「予防刑論」と呼ばれるものです。予防には、社会一般の将来の犯罪予防に役立てる「一般予防」と、犯罪行為者本人の将来の犯罪予防に役立てる「特別予防」の2つの側面があります。

また、応報刑論と予防刑論、両方のメリットとデメリットをお互いにカバーしあう「相対的応報刑論」という考え方もあります。これは、犯罪行為者の行為に見合った責任を前提に、犯罪予防に役立たない刑罰を科さないとする考え方です。この応報刑論・予防刑論は、実際に犯罪に対する刑罰を科す場面だけではなく、刑事立法の場面でも機能します。さまざまな犯罪事例に対して、応法刑論・予防刑論・相対的応報刑論などを用いて、“なぜ、刑罰を科すことができるのか”、“その限界はどこにあるのか”を考える必要があります。

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小野上 真也教授法学部 法律学科

  • 専門:刑法学
  • 掲載内容は、取材当時のものです