「法律行為」とは、民法の中で「取引」をする際に基礎・土台となる概念です。取引とは、例えば「お腹が減ったからパンを食べたい」と考えて申し込む、それに対して商店の人が「100円で売りますよ」と承諾する。この売買契約を結ぶことによって、お客さんは100円(欲しい物の代金)を支払って、商店の人はパン(ある財産権)を相手方に渡すことになります。このように、契約は「人が意思表示をすること」で成立します。この流れ全体を「法律行為」といいます。「法律行為」は、契約が成立するか、しないかという最初の場面にも関わっています。契約が成立するためには、売りたい側と買いたい側の意思が合致する必要があります。しかし、当事者にとって本当に欲しいものかどうかが不確かな場合や、この契約が本当に妥当性のあるものかわからない場合も出てきます。例えば、錯誤、詐欺、脅迫という問題が発生すると契約は成立しなくなり、当事者がどんなに望んでも法律で禁止されていたり、社会的に認められなかったりする場合は契約が成立しないことがあります。いずれにせよ、こうした問題のある場面を特定することが「法律行為」の役割だといえます。また、「法律行為」の核心には常に当事者が何を考え、何を望んでいるかという「意思」が存在します。「法律行為」とは、当事者の望んだ内容を確定していく作業でもあるのです。私たちが取引をする過程には、きっかけ(動機)があり、実現に向けてあれこれ考え(内心の効果意思)、ある程度考えがまとまると表示を決意し(表示意思)、最終的に取引を依頼する(表示行為)という4段階に分けることができます。この中で最も重要なのは、「内心の効果意思」と「表示意思」です。そして、取引する相手から見えないものを一番大切だと考えることを「意思主義」、相手にわかりやすく表示することが大切だと考えることを「表示主義」といいます。この意思主義と表示主義の対立についても「法律行為」の規定の中で考えなければならない重要な課題の一つです。

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太田 昌志教授法学部 企業法学科

  • 専門:民法、契約法、不動産法、ドイツ民法
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