労働法とは、労働者だけではなく、会社・公務組織、国家にとっても必要な法律です。例えば、仕事を辞めたいのに辞めさせてくれない、賃金が一方的に下げられた、賃金未払いなどの問題が起きた時に、労働法は、労働者に有効な解決方法を提示してくれます。また、労働者を守るだけではなく、労働法には経済活動や国を支えるという側面があります。労働者が力を発揮しなければ、会社・公務組織の生産性・活力は低下していきます。労働者が不満を抱えることなく働くためには、会社・公務組織がルールを守る必要があります。そのルールが守られることによって労働者のモラルやモチベーションは維持されていきます。さらに、国民がイキイキと働くことができなければ国家にとっても大きな損失ですし、国民の人権保障は国家の最重要の責務です。労働法は、「安心して働ける職場環境」を守るための「法」であり、労働に関わるすべての利害関係者にとって重要な役割を果たしています。

実は我が国には、労働法という名称の単一法典は存在しません。日本では、労働基準法、労働契約法、労働組合法、労働関係調整法、労働市場法などのさまざまな労働法で構成されています。また、これらの労働法を実効あらしめるための履行確保手段も極めて重要です。労働法の履行確保手法には、労働基準監督署による監督指導・立件、労災事故に対し、労災保険による保護も適時行われます。その他に、労働契約法の契約ルールを労働者や会社が守らない場合には、裁判所の確定判決によって紛争解決にあたる場合もあります。

最近の労働法上の大きな課題は、労働法が適用される労働者とは誰なのかということです。例えば「業務委託」で配達業務を行って、報酬未払いや事故被害にあった際に、労働法が適用されるか否かに関するトラブルが生じ続けています。また、最近増えているフリーランスで働く人への労働者性判断についても問題になっています。これらの人を救済するために、労働法に加え、別の法律を適用していく視点を持つことや、新たな立法・判例法理などの検討も進められています。

pf-kitaoka.jpg

北岡 大介准教授法学部 企業法学科

  • 専門:労働法
  • 掲載内容は、取材当時のものです