「低酸素トレーニング」とは、高地のように気圧が低く酸素が少ない環境や、人工の低酸素室などを用いて、気圧はそのままで酸素濃度を下げた環境で行うトレーニングのことを言います。近年では、スプリントトレーニングや筋力トレーニングといった、低酸素環境で行う高強度トレーニングの効果が報告されています。自転車を用いて、低酸素環境で行うスプリントトレーニングの効果を検討した研究では、通常の酸素環境で行ったスプリントトレーニングと比較して、全力ペダリング時の発揮パワーがより向上しました。私たちが行った研究では、低酸素環境で行う筋力トレーニングが、筋肥大や筋力増加に加えて、通常の酸素環境よりも筋肉内の毛細血管を増やし、筋持久力をより向上させました。これらの研究結果から、現在低酸素トレーニングは、筋パワーや筋持久力を要求される競技種目のパフォーマンス向上にも貢献できるトレーニング法として期待されています。
一方、近年では、低酸素トレーニングが一般の人々の健康増進にも役立つ可能性が示唆されています。過体重や肥満の人を対象に低酸素環境または通常の酸素環境で週3回60分間のランニングを4週間行ったところ、低酸素環境でランニングを行った方が、体脂肪量の減少に効果的であることが報告されました。私たちの研究でも、低酸素環境で運動を行った方が、脂肪分解作用を持つ成長ホルモンが分泌され、運動後の脂肪分解がより促進しました。このように、低酸素トレーニングは、アスリートのパフォーマンス向上だけではなく、一般の人々の健康増進にも役立つ新たなトレーニング法の一つとなる可能性を秘めています。

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今 有礼教授健康スポーツ科学部 健康スポーツ科学科

  • 専門:運動生理学・生化学
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