なぜ、刑事司法システムの中でソーシャルワークが求められるのかについて、「地域福祉の課題として捉える」「多職種・多機関連携と協働」「権利擁護実践」という3つの視点で考えます。日本の刑事司法システムは、警察、検察、裁判所、刑務所、保護観察で構成されています。社会福祉士や精神保健福祉士は、地方検察庁、刑務所、更生保護施設に入って、検事や弁護士などの多職種とチームを組み、他機関と連携協働しながら活動しています。例えば刑務所内で働く場合、重要な役割の一つが、権利擁護の実践です。権利擁護とは、受刑者が塀の中でも安全を確保し、必要な権利を表明できるように教育したり、心理的社会ニーズを組織へ代弁したりすることです。具体的な取り組みとして、更生支援計画書の作成や提示、裁判における証言などがあります。このような「多職種・多機関連携と協働」や「権利擁護実践」に加え、もう一つの視点として、「地域福祉の課題として捉える」ことについても考えてみましょう。日本は、超高齢社会により犯罪者の高齢化が進み、刑法犯検挙人員に占める高齢者の比率は、平成10年の4.2%から平成29年では21.5%に上昇しています。女性に絞ると34.3%とさらに高い数字になっています。そのうち70歳以上は、男性の約5割、女性の約9割が窃盗罪で捕まっています。背景には、認知障害や経済的な困窮、社会的な孤独状態など、さまざまな理由が潜んでいるケースが多く、被告人としてではなく、家族歴や生活歴を含めた一人の人間として理解しなければ再犯防止や社会復帰につなげることはできません。そのため、地域福祉の視点を持った社会福祉士などの専門家が関わる必要があります。これまで社会福祉の領域といえば、高齢、障害、児童、地域、病院が実践の場として捉えられてきましたが、現在では、ソーシャルワーカーの活躍の場は刑事司法システムの領域にまで広がってきているのです。

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戸井 宏紀准教授福祉社会デザイン学部 社会福祉学科

  • 専門:司法ソーシャルワーク
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