近年、「多問題ケース」を抱える人たちが増加しています。多問題ケースとは複数の家族がそれぞれ、貧困や引きこもり、虐待、介護など複数の問題を抱えていて、それが家族間で複合し、アルコールや薬物、買い物、ギャンブル依存症、家族機能の不全(虐待、ネグレクト)、生活問題の重層性(地域社会からの差別、偏見、不平等)などの、さらなる問題を引き起こして悪循環になってしまっているケースです。周囲から理解されず生活環境が悪化した当事者は、自己否定感や対人不信あるいは人格の歪み、精神障害の発生などを引き起こし、自殺や、近年起きている社会を恨んだ凶悪な事件につながってしまっています。このような多問題ケースに対して、ソーシャルワーカーとしてどのように支援をしていけばよいのでしょうか。これまでは専門治療機関において、治療するためには当事者が厳しい現実を直視しなければならない「直面化」という考えのもとで支援が行われていました。しかし、当事者の危機意識の自覚を待っていると本人の自殺や家族への暴力の悪化、家族の心的外傷の悪化など二次的問題が発生し、さらに追い込んでしまったりする恐れもありました。そこで現在は、専門家が緊急時の介入を準備しながらも、当事者の健康の回復と困難の克服を目指すべく、問題解決に向けた意識と意欲を喚起するような働きかけをしていく方法(動機付けインタビュー)がとられています。このように目まぐるしく変わる時代の流れ、社会の変化によって、社会福祉にも新しい考えや役割が求められているのです。

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吉浦 輪教授福祉社会デザイン学部 社会福祉学科

  • 専門:社会福祉援助論、医療福祉論、多職種連携・協働論
  • 掲載内容は、取材当時のものです