言葉は単に、事実や情報、主張を伝える道具ではありません。発信者の感性や思考、無意識が、受信者に働きかける不思議な力を持っています。言葉の不思議な力が作用する創造的な文章や難解な文章、英語の詩を読むときには、精読・熟読・味読といった、趣を味わい、細部にこだわり、文脈に寄り添い、言葉の意味を精査してゆっくり繰り返し読む方法が適しています。いくら人工知能の機械翻訳の精度が上がったからといって、解釈を伴う読解をすることは困難であり、精読が不可欠になるのです。今回例に挙げた作品では、「風」を地面を耕す鋤に例えたり、「暑さ」をフルーツの関係を用いて表現するなど、斬新な発想がみられました。また、フルーツの比喩が多用されており、「禁断の果実」は欲望を、「愛の結晶」では赤ちゃんを表現しています。「朝の歌」では妊娠から出産までの美しさや自然現象、生命力の素晴らしさを、母になった語り手の繊細な情緒を通し、安心と喜び、新生児の圧倒的な存在感、母親の穏やかな心情や細やかな愛情を表現しながら語っているのです。こうした優れた文芸作品は、普遍的な経験や記憶につながり、読者の感性や思考をより一層豊かにしてくれます。英米文学を学ぶ際、英語のネイティブとその学習者の間には、読解力や読書量においても、大差があり、その克服は困難だといえます。しかし、丁寧な読解で質を高めれば、ネイティブと対等にわたり合うことも可能でしょう。それはノンネイティブが国際的に貢献するための近道であり、英米文学科が読解力を重視する理由でもあるのです。

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余田 真也教授文学部 英米文学科

  • 専門:アメリカ文学
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