近年では、仮想社会を用いた意思決定支援の研究が盛んに行われ、社会全体の課題からビジネス課題まで幅広い領域で活用されています。その身近な事例としては、「スーパーマーケットのレジのレイアウト設計」があります1)。これは、スーパーマーケットの店舗をコンピューター上に仮想的に生成し、その仮想店舗上に作った来店客の模型(人間行動のモデル)をもとに、レジの台数や来店客の数を変えるなど、さまざまなシナリオを試して、混雑の様子を分析していくものです。

こうした研究は、単にシミュレーションをして混雑を予測するだけではありません。店舗の運営者の間で共有し、シミュレーションをもとに対話を重ねることで、データだけではわからない新たな気づきを得て、そこから有効な施策を発見していきます。つまり、シミュレーションは、コミュニケーションツールの一つになるのです。

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社会もビジネスも複雑化している現在では、過去のデータから知見を得ようとするデータサイエンスだけでは対処しきれないことがあります。そこで今、求められているのが、過去に起きていないことを含め、未来の可能性を予見していく方法である「人間行動のモデルに基づくサイエンス」2)です。15年ほど前は、仮想社会の中で100体の人間を動かすことが精一杯でした。しかし、現在ではAIなどの情報技術の進歩により、東京都を丸ごと動かすほどの大規模なシミュレーションが可能になってきています。

近い将来、研究者だけではなく、問題を抱える現場の人々が自ら仮想社会を使ってシミュレーションができる時代が訪れることでしょう。現在取り組んでいるこのような研究を通して、人々がより良い情報を得て、質の高い納得感のある意思決定ができる、豊かで持続可能な社会の実現を目指しています。

●参考文献
1)Ohori, K., Yamane, S., Kobayashi, N., Obata, A. and Takahashi, S.:Agent-Based Social Simulation as an Aid to Communication Between Stakeholders.Advances in Computational Social Science,Springer,pp.265-277, 2014
2)高橋真吾,後藤裕介,大堀耕太郎:社会システムモデリング,共立出版,2022

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大堀 耕太郎教授経営学部 経営学科

  • 専門:システム科学、社会システムデザイン
  • 掲載内容は、取材当時のものです