日本酒製造の酒蔵には、長年にわたってすみ着いている「蔵付き微生物」が存在します。これまで日本酒造りにはさまざまな酵母がアルコール発酵の主役として活用されてきましたが、酵母以外の蔵付き微生物の中にも日本酒の味や香りに良い影響を及ぼすものがあることがわかってきました。

醸造学研究室では、蔵付き微生物のなかでも、特に蔵付きバクテリアの多様性とその役割を解明するとともに、蔵付きバクテリアの機能を利活用した「これまでにない味や香りを持つおいしい日本酒」を造る方法を提案したいと考えています。

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これまでの研究では、富山県南砺市の成政酒造の酒蔵から放線菌のグループに属する蔵付きコクリアを複数株分離し、コレクションしました。そして、これらのコクリア株を添加した日本酒と添加しない日本酒を造り、それぞれの日本酒にどのような違いが出るかを味覚センサーや試飲によって比較分析しました。試飲の結果、41人中39人が「コクリアを入れたほうがおいしい」と回答し、味覚センサーによる測定においても違いが出ました。この結果から、蔵付きバクテリアは日本酒造りの主役である清酒酵母との相互作用によって、日本酒の味や香りに変化をもたらすことが明らかになりました。

現在、異なる酒蔵から異なる蔵付きバクテリアを分離し、分類学的な比較を行っています。今後はそれらをゲノム解析をすることによって、それぞれの蔵付きバクテリアの機能を推定し、微生物間相互作用を探ることにより効果的に蔵付きバクテリアを利活用できるようになると期待されています。このように最先端のサイエンスを伝統産業である日本酒造りに積極的に取り入れることで、日本の伝統文化を次の世代に継承し、さらに発展させることにつながると考えています。

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西田 洋巳教授食環境科学部 食環境科学科 醸造学研究室

  • 専門:微生物学
  • 掲載内容は、取材当時のものです