理工学部機械工学科1年生対象の必修科目である「機械工学序論」では、自分で考えたものをゼロから作る「ものづくり」のきっかけにすることをねらいとして「ゴム動力車競技」に取り組みます。全3回のこの課題は、今後学んでいく専門科目への導入として位置付けられます。学生たちはグループで設計・製作を行って、最終回には実際に走行させて記録を競います。学生たちがアイデアを出し合い、試行錯誤しながら、ゴム動力車を作り上げていく過程では、楽しみながらも真剣にものづくりに取り組む姿が見られました。

「ものづくりの楽しさ」を味わいながら「機械工学とは何か」を学ぶ

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「機械工学序論」は、機械工学科の1年生対象の必修科目として、機械工学の概要や機械工学を学ぶ上で必要なスタディスキルを身につけるために2013年度より開講されています。報告書の作成方法、技術者としての倫理などについての講義や演習から、グループに分かれての実験や製作まで、「機械工学とはどのようなものなのか」を学びながら、「ものづくりの楽しさ」を実践的に経験していきます。PBL(プロブレム・ベースド・ラーニング、問題解決型学習)を取り入れた講義では、グループワーク、ディスカッション、プレゼンテーションを通じて、入学後の早い段階から仲間と議論して問題を解決する能力や、現象を観察する習慣などを身につけ、技術者としてのものの見方、考え方を養っていくことを目的としています。

「機械工学序論」を担当する山川聡子先生と山田和明先生は、「この講義が、ものづくりをしていくきっかけになればいい」、「簡単なものでもいいので、ゼロから何かを作りあげる経験をしてほしい」との思いから「ゴム動力車競技」という課題を始めました。これは、厚紙3枚、アクリル棒6本、輪ゴムという限られた材料を用いて、グループで「ゴム動力車」をゼロから作り、走行距離、走行速度、安定性(平均距離)、アイデアを競い合うものです。学生たちは第1回の講義で説明を受け、方針やスケジュールを決定したら、2週間でゴム動力車を製作し、第3回では完成したゴム動力車を走行させて競技会を行います。この講義を通して、学生たちは「ものづくりの楽しさ」を味わいながら、「材料力学」や「運動学」「機構学」などの機械設計の考え方や加工法、プロセス管理など、製造に関する考察を経験します。

ゼロから形にするグループワーク

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第2回の講義でそれぞれのグループは、第1回で話し合った方針やスケジュールなどをもとにゴム動力車の製作に取り組みました。「先生の試作品を超える車を作ってください」と伝えられている学生たちは、グループ内でアイデアを出し合いながら形にしていきます。設計図を作ってから加工を始めたり、直感で作り始めたりと、進め方はグループによってさまざまです。また、ゴム動力車の形もグループの個性や工夫が反映されており、三角形や長方形、大きな車体や小さな車体など、一人ひとりが持ち寄ったアイデアを形にしていきました。機械の中ではイメージがしやすい「車」ではありますが、まだ専門知識を十分に持っていない1年生ということもあって、動力となる輪ゴムを引っ張ったときに車体がゆがんでしまうなどのトラブルに直面するグループもありましたが、それぞれのグループを見て回る山川先生と山田先生が「シャフトを通す穴は、しっかりとタイヤの中心に開けないと回転がゆがむ」「動力になるタイヤが小さいと、1回のタイヤの回転で進む距離が稼げなくなる」などと助言しながら、学生たちをサポートしていました。
授業も後半になると、徐々に各グループのゴム動力車が形になってきます。学生たちは完成間近のゴム動力車を試走させて、車軸や強度などの問題点を見つけ、さらなる改善を試みます。時間いっぱいまで学生たちは、真剣なまなざしでそれぞれのゴム動力車と向き合い、試行錯誤を重ねながら完成へとこぎつけました。

集大成となる競技会

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第3回目の講義は競技会でした。全21グループが3回ずつゴム動力車を走らせて、走行距離、走行速度、安定性(平均距離)、アイデアの4部門で競い合います。
走行前には、それぞれのグループを代表する学生が1人ずつ、自分たちの作ったゴム動力車の特徴や工夫点などを1分間でPRするプレゼンテーションの時間がありました。これはPBLならではの取り組みです。
各グループは、軽量化を最優先した車、動力となるゴムを2箇所に設置したツインエンジン車、新幹線のぞみ号をモデルに空気抵抗を抑えた車など、それぞれが特徴のあるゴム動力車を走らせました。まっすぐに走らずに大きく曲がってしまったり、スピードは出ても距離を稼げなかったり、結果もさまざまでしたが、すべてのグループが自分たちのゴム動力車を走らせることができました。厚紙を使わずにアクリル棒のみで車体を作ったグループが、走行距離、走行速度の2部門でトップとなって競技会は終了となりました。
想像通りの走行を実現できて笑顔を見せるグループも、想定外の結果に悔しい表情を見せるグループも、「なぜこのような結果になったのか」や「どのような点が良かったのか、悪かったのか」について話し合う場面もあり、そこには、ただ楽しむだけではなく、真剣に学びに取り組んできた学生たちの姿がありました。

今後の専門科目につながる貴重な経験

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学生たちは、この「ゴム動力車競技」を通してさまざまな学びや発見があったようです。2部門において最高記録を出したグループのひとりである石河将太さんは「タイヤがうまく回らないと車が止まってしまう原因になるので、動力を車輪に伝えるための回転軸であるシャフトが抵抗なく回るためにはどのようにすればいいのかを3人で話し合いました。また、説明書の通りに組み立てていくのではなく、ゼロから自分たちの力で作ることで、明確に結果とその原因を分析することができました。ものづくりの楽しさだけでなく、『自分で考えて作る』ことの大切さを学びました」と話しました。
また同じグループの石井雄也さんは「この作品は、グループワークの中でさまざまな意見を出し合って、ディスカッションと試行錯誤を繰り返して完成させた作品です。自分一人の力では決して生まれなかった作品で、3人で作り上げたからこそ、ここまでの素晴らしい作品を作ることができたのだと思います。グループワークの大切さを学びました」と笑顔を見せました。

この講義は1年生を対象としているため、学生たちが持つ専門知識はまだ不十分です。そのため、山川先生は「簡単なものでもいいから、自分で考えながらゼロから作る経験をしてほしい」と考えています。「まずは手を動かしてみて、うまくいけば達成感が得られる。うまくいかなかったとしても、そこで味わう悔しい気持ちは必ず将来の糧になります。また、グループで取り組むことにも大きな意味があります。グループワークで起こる挫折や揉めごとなどを経験しながら、そこからどのようにして、成功に向かって挑戦していくかということも学び、うまく軌道修正するためのディスカッション能力も養ってほしいと思います」と述べました。また、山田先生によれば、今回の経験は、これから学んでいく専門科目につながっていくと言います。数年前に、全学年の機械工学科の学生を対象に、「ゴム動力車競技」についてのアンケートを実施したところ、「『ゴム動力車競技』と、その後の専門科目との関連性を感じましたか」という質問に大半の学生が「感じた」と回答していたそうです。「ゴム動力車競技」は、確実にその後の機械工学を学んでいく良いきっかけとなっているようです。

「この課題を通じて、ものづくりにおける機構や、構造、加工精度などの重要性を理解することを望んでいる」という山田先生。「今回、学生たちはゴム動力車を作るにあたって、何気なく箱形にしていますが、専門科目を学んでいくと、そこには一つひとつ意味があるということに気づくでしょう」と語りました。

  • 掲載内容は、取材当時のものです