大学で学ぶ地理学は、地表で起こるあらゆる現象を「場所」と結びつけて捉える学問であり、自然や社会、文化など幅広い対象を研究します。研究対象そのものも重要ですが、地理学で特に大切なのは「地理学的なものの見方」です。この特別講義では、①現象の背景から地域の特徴を読み取る、②異なる地域で同じ現象を比較する、③現象を空間的に捉え地図化する、という三つの視点を紹介します。
その具体例として、私が研究してきた日本の闘牛を見ていきます。日本の闘牛は牛同士が力比べをする伝統行事で、鹿児島県徳之島では、かつて黒糖づくりに使われた牛の姿に人々が自らを重ね、現在も闘牛文化が受け継がれています。一方、新潟県中越地方では引き分けを重んじる文化があり、地域によって闘牛の形や価値観は大きく異なります。徳之島では親戚や友人の牛とは取り組まず、町や集落を越えた相手と対戦し、勝負の後には相手への配慮を欠かさないなど、空間的な工夫によって人間関係のバランスが保たれています。
このように、闘牛という一つの事象から、地域ごとの価値観や歴史、社会のあり方が立体的に浮かび上がります。その違いを比較し背景を読み解くことで、文化の成り立ちが見えてきます。さらに、同じ闘牛という行事であっても、勝敗のつけ方や対戦相手の選び方に地域ごとの工夫が込められており、そうした違いから闘牛が人と人との関係性や地域社会の在り方をどのように反映しているのかが読み取れます。身の回りの出来事も地理学の視点で捉え直すことで、日常の中にある地域の特徴や人と人との関わりを新たに読み取ることができるのです。