私たちの身の回りには、プラスチック製品をはじめ、さまざまな高分子材料が存在します。なかでも、水に溶ける性質を持つ高分子は、0.1〜1ナノメートルの小さな構造が数珠つなぎに連なり、水の中でもその高分子同士が近接する状態をつくることができます。高分子は、低分子では実現できない特異な化学反応を起こすため、それを医工学のモノづくりに役立てることが可能です。例えば、銅錯体の場合、銅が過酸化水素に酸化され還元する触媒反応によって、活性ラジカル種のヒロキシラジカルを生成します。これをFenton-Like reaction(フェントンライク反応)といいます。
実際に実験を行うと、過酸化水素(H₂O₂)のみの状態だとヒドロキシラジカルの発生はあまり見られませんが、銅触媒によって高分子化することによって水溶中で近接する効率的な反応中間体をつくり、ヒドロキシラジカルの発生を促進することがわかっています。さらにこの高分子銅錯体は、大腸菌などの病原体に強い抗菌作用を示す一方、正常細胞にはほとんど毒性を示さないという作用を持ちます。ヒドロキシラジカルの機能には、抗菌作用があるため抗がん剤や抗菌剤として有用です。
また、銀錯体も高分子になると水溶中で銀同士が近接し、銀イオンの自己還元反応を起こすことにより、還元剤や電解精錬を使わなくても、銀ナノ粒子を形成することができます。銀ナノ粒子には、酸化還元活性や高い導電性、表面プラズモン共鳴の機能があるため、抗菌剤や導電ペースト、病原体などのバイオマーカーに応答する比色センサーなどに使うことが可能です。このように高分子の化学反応を探究することは、医療分野の課題解決や技術開発への貢献につながっています。