「人工知能(AI)」という言葉を聞かない日がないほど、AIは日常生活に浸透しており、その進化が私たちの生活や社会を大きく変えつつあります。日々、進化し続けるAIには新たな可能性があると同時にさまざまなリスクを抱えています。そのため、安心・安全な社会を実現するには信頼性あるAIの社会実装とその利活用が不可欠です。今後、さまざまなリスクを回避するためには、AI開発者、提供者、利用者のそれぞれが、“どのようにAIガバナンスを実現するか”という視点を持つことがきわめて重要です。そして、最終的にAIガバナンスが実現できているかどうかを「AI監査」によって確認していく必要があります。

AI監査論は、(1)「AIそのものを対象とした監査」、(2)「監査でのAIの利活用」、(3)「AIによる監査の雇用の未来」という3つの体系から成り立っています。監査の種類には、外部監査、内部監査、ISO(国際標準化機構)監査等があります。なかでも特に内部監査におけるAI監査は「AIの健康診断」とイメージするとわかりやすいです。一般的に、健康診断ではまず問診(「監査計画」)が行われ、その後血液・レントゲン検査など(「監査実施」)が行われ、最後に健康診断結果報告書(「監査報告」)が提出されます。この過程において、たとえ健康体であっても何らかの問題が見つかれば問題に早期に対処していきます。AI監査もこれと同様なのですが、AI監査を健康診断と言っても実際にAIをどう監査すればよいのかがわかりづらい点もあります。

そこで2023年12月にThe Institute of Internal Auditors(略称 IIA:内部監査人協会)から公表された『人工知能(AI)監査フレームワーク』の改定版、そして2024年6月に出た日本語訳を参考にし、AI監査を実践していくことが可能です。また、私の研究室では、実際に監査の現場でAIがどう使われているか、それによって雇用の未来がどうなるかを調査し、GPAI(Global Partnership on AI)という国際官民連携組織に報告する取り組みを行っています。
本学でAI監査論を学び、それを実践することで、AIガバナンスを実現し、安心・安全な社会を築いていただけることをこころから願っております。

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中野 雅史教授総合情報学部 総合情報学科 システム情報専攻

  • 専門:AI監査論、ビジネス情報論、会計学、情報学、企業経営
  • 掲載内容は、取材当時のものです