従来の姿勢データ取得には、「光学式モーションキャプチャシステム」が用いられています。その多くは装着型で、測定したい体の各部位に体表マーカーを貼り付けて複数台の特殊カメラを用いて測定するため、精度の高い計測が可能です。しかし、計測場所に制限があることや、マーカーを貼り付ける準備の煩雑さ、さらに装着手法によって測定精度に大きく影響するといった欠点もあります。

現在、スポーツや医療、エンターテインメントなど、さまざまな分野で幅広く応用されているのが「姿勢推定」と呼ばれるものです。これはAIやディープラーニング技術を用いてカメラで得られた画像・動画から人体の関節や体の部位を検出し、その位置や動きを自動的に推定する技術です。特に複数人の姿勢を推定する場合には、各人物の関節点を正確に推定することが重要です。

複数の人物の姿勢推定を行うためには主にTop-Down手法とBottom-Up手法の2種類があります。Top-Down手法は、まず人物を検出した後にそれぞれの人物のキーポイントを推定し、人物の姿勢を推定します。そのため比較的精度の高い推定結果が得られますが、二段階(人物検出と姿勢推定)処理のため計算量が多く、計算コストが高くなります。Bottom-Up手法は、画像内のすべてのキーポイントを検出し、そのキーポイントを元にすべての人物の姿勢を一度に推定します。そのため処理時間は短くなますが、Top-Down手法より検出精度は低くなる傾向があります。

姿勢推定技術を活用することで、人間の姿勢を可視化し、さらに定量的に分析することが可能です。例えば、スポーツ分野で選手の動作分析、体操の自動採点などに応用されるほか、ヨガセラピー時の心理状態分析や健康管理などにも活かされています。AIを活用した姿勢推定は、今後の技術進化によってさらに多くの分野で活躍し、広範な可能性が期待されています。

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鄭 宏杰准教授総合情報学部 総合情報学科 心理・スポーツ情報専攻

  • 専門:コンピュータサイエンス、人工知能、データサイエンス、計算力学
  • 掲載内容は、取材当時のものです