水滴がぶら下がる、水がコップの表面に盛り上がる、アメンボが水に浮かぶなどの現象は、すべて「表面張力」によるものです。水は分子同士の引き合う力が強いため、表面張力が大きくなり、より丸まりやすくなります。一方、油は、分子同士の引き合う力が弱いため、表面張力が小さく、液滴が丸まらずに濡れ広がります。また、同じ水であっても何の上に置くかによって水滴の形は変化し、弾かれる場合と濡れ広がる場合があります。

水滴の形の変化は、「接触角」で示されます。接触角とは、液滴が固体と接触するときに液滴の表面と固体表面のなす角のことです。水を弾く「撥水性」の場合は接触角が大きくなり、水が濡れ広がる「親水性」の場合は接触角が小さくなります。この濡れ広がり方の違いを「濡れ性(撥水性・親水性)」と呼びます。

平坦な表面における接触角は「Youngの式」で求めることができ、液体・固体の表面張力と、固体と液体の界面張力の3つの力のバランスによって決まります。さらに接触角は分子の種類だけでなく、表面の形状にも影響を受けます。例えば、液滴が凹凸の表面の溝に食い込むWenzel状態や、凸面に乗るCassie-Baxter状態があります。

これらの現象を組み合わせて接触角を変化させることで、人工的に超撥水性や超親水性を実現することができます。例えば濡れ性の工学的な応用例としては、開放型マイクロ流路があります。これは、表面張力により水滴が素早く動く性質を利用し、微量試料の採取や分析ができるデバイスです。表面張力と濡れ性について化学の視点で学び、理解を深めることで、新しいものづくりや社会に役立つデバイスの開発につなげることができます。

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甲斐 洋行准教授生命科学部 生体医工学科

  • 専門:材料化学、マイクロ流体科学、センサ工学
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