教育学を表すペダゴジー(pedagogy)という言葉には、子どもを教育する技術(art)と科学という意味があります。ペダゴジーによる指導には、主に同年齢の子どもに向けて画一的で標準的なカリキュラムが用意され、何を、いつ、どのように学ぶかについては教師にゆだねられます。それに対しアンドラゴジー(andragogy)という言葉には、おとなの学習を援助する技術と科学の意味があり、おとなの学習の特性や方法について考える学問を指します。

このアンドラゴジーという理論は、1970年代から80年代にかけてアメリカの教育学者マルカム・ノールズによって体系化されました。この成人学習理論によると、おとなの学習者には、大きく分けて4つの特性があります。1つ目は、おとなの学習には、自己決定性やアイデンティティが大きく影響すること。2つ目は、これまでの蓄積された経験が豊富な資源となって学習の基盤になること。3つ目は、おとなの学習へのレディネス(準備状態)では、社会的な役割や精神的な発達課題に目が向けられること。4つ目は、学習への方向付けが、教科中心のものから課題達成や問題解決中心のものへ変化していくことです。また、おとなの学習者の場合、内的誘因や好奇心に働きかける新しいことを学ぶための動機づけがより重要であることも指摘しています。

このような特性を考えると、おとなの学習者は、自己概念や自己決定性が明確でない子どもの学習者に比べ、より主体的で能動的な学びを求めていることがわかります。教育の場面において、おとなの学習者に適した支援や援助を実現するためには、子どもとおとなの学習の違いや特性を理解し、それを生かした働きかけや指導が必要なのです。

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堀本 麻由子准教授文学部 教育学科

  • 専門:成人教育論、生涯学習論、社会教育学
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