迷惑施設紛争とは、社会的に「必要」とされている施設に対して、地域住民の反対によって引き起こされる対立のことをいいます。例えばその一つであるごみ処理場は、人々の清潔で快適な生活を維持するために必要です。しかし、どの場所に建てるかによって地域住民からは反対の声があがります。迷惑施設へ反対する行為や人に対して、「エゴや自分勝手」という見方があります。その背後には、「集合利益」対「個別利益」という対立の構図がありますが、「環境的公正」という視点でみると、また別の見方が生まれます。

環境的公正とは、環境からの便益(環境資源の享受)および環境破壊の負担(被害)の公平な分配によって、環境保全と社会的公正の達成をめざす考え方です。現実的には「環境的不公正」が存在し、弱者(マイノリティや貧困層)ほど、環境資源からの便益を享受できず、公害や環境影響の被害を受けやすい傾向にあります。また、公害・環境問題の被害は、健康被害だけではなく、その軽減や救済など、広く生活全般に及び、そこには社会的格差や差別の問題が関わっています。経済的に裕福な人々は、別の場所へ居住し危険を回避し、被害を軽減するためのさまざまな措置をとることができます。一方、経済的格差や差別の問題を抱える人々は、声をあげることもままならず、不利な状況に追いやられます。もし迷惑施設を弱者に押し付ける傾向があるならば、住民の反対は「エゴ」ではなく、むしろ格差をこうむる人々が不平等な関係を是正していくための「正義の運動」と捉えることもできるわけです。

日本では、廃棄物問題以外にも、エネルギー、運輸、福祉など、さまざまな政策領域においても迷惑施設紛争が起きています。それらの問題に対しても、環境的公正という観点から考えることが重要な課題となっています。

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中澤 高師教授社会学部 社会学科

  • 専門:環境社会学、環境政治学
  • 掲載内容は、取材当時のものです