日本の社会保障制度は、「社会保険」「社会福祉」「公的扶助」「保健医療・公衆衛生」の4つに分類することができます。このうち公的扶助は、事前の拠出(保険料の拠出)を伴わず、租税のみによって賄われ、最低限度の生活を保障するしくみのことです。公的扶助は貧困にある人を救済する機能を持ち、日本では生活保護制度がそれに相当します。生活保護制度の目的は、国が生活に困窮するすべての国民に対して必要な保護を行い、最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することです。支給される保護費は、世帯構成、年齢、居住区などに応じて最低生活費(生活扶助、住宅扶助、教育扶助を含む)を算出し、そこから収入として認定された年金、手当、就労などの収入を差し引いた金額で決められます。また保護費とは別に医療サービスや介護サービスは無償で現物給付されます。

政府は公的扶助を提供することによって、貧困に陥った人々を救済し、自立させたいと考えています。これを利他主義といいます。しかし、政府が利他的であることを知っている人々が必ずしも政府の望む方向に進んでくれるわけではありません。政策の目的や目標がどんなにすばらしくても、人々が国民年金の保険料を納めるインセンティブ(誘因)や生活保護を受給しながら労働意欲を失わない労働インセンティブを十分に考慮しないと、自立の助長を実現できなくなる恐れがあります。私たちは「生活保護」と聞くと、困窮の程度に応じて必要な保護を行い、最低限度の生活を保障することのみをイメージしがちですが、「自立を助長する」ためにどうしたらよいかを議論し、そのための新しいしくみづくりについて考える必要があるのです。

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石田 三成准教授経済学部 経済学科

  • 専門:財政学
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