保育の現場では、保育の質を向上させるために「ノンコンタクトタイム」が注目されています。保育におけるノンコンタクトタイムとは、保育者が勤務時間内に、担当する子どもから離れ、保育記録や教材の作成、話し合いなどをする時間のことです。背景には、3つのポイントがあります。1つ目は、2018年度から実施されている幼稚園教育要領・保育所保育指針により、カリキュラム・マネジメントの充実による保育の質向上が求められていることです。2つ目は、今後、日本の保育においても子どもの学びや育ちに対するエビデンスが重視され、可視化できる保育記録、作品、データ分析によるフィードバックが必要となるからです。3つ目は、組織としてのカリキュラム・マネジメントおよび保育者の専門性を高めるために、同僚との園内研修やカンファレンスのあり方が注目されていることです。しかし、全国私立保育園連盟の実態調査によると、ノンコンタクトタイムが20分未満の保育士が全体の60%を占め、そのうち0分と答えた人は39%でした。保育園や認定こども園にとって、どのようにしてノンコンタクトタイムを確保するかが大きな課題といえるでしょう。例えば、関東地方のK保育園がある市では、保育士の労働環境の改善を図ることを目的に「保育体制強化費」を補助しています。K保育園ではそれを活用し、用務員や保育補助者など、保育をさまざまな形で支援する職員を7名採用し、新しい体制を整えることでノンコンタクトタイムを確保しました。K保育園では、保育の質向上のために、日々の活動の準備、ICTによる個人記録作成などの仕事を大切にしながらも、これらの業務を勤務時間で行い、残業をしないことを重視しています。保育の質を向上させるためには、保育の内容を充実させることはもちろん、保育者の働き方について考えることも重要な課題の一つなのです。

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高橋 健介准教授福祉社会デザイン学部 子ども支援学科

  • 専門:幼児教育学、保育学
  • 掲載内容は、取材当時のものです