ヨーロッパでは、古典古代の伝統思想が社会や人々の間に今も深く根付いています。この思想は、約2000年前のイタリア半島のローマやギリシアを中心に発展した文明、文化の中で育まれたものです。なかでも古代ギリシアは、ドイツに大きな影響を与えました。その理由の1つは、ドイツの芸術家や文学者が古代ギリシアに憧れを抱き、さまざまな作品を生み出したからだと言われています。19世紀になると、古代ギリシアはドイツの社会や文化の模範として脚光を浴びました。ドイツには、「詩人と思想家の民族」と「裁判官と死刑執行人の民族」と呼ばれる2つのイメージがあります。ゲーテ、ヘッセ、カント、ニーチェなどの文学者や哲学者を輩出した文化的な民族から、ナチス・ドイツ時代の軍事的な民族へ変化する背景には、ドイツが模範とする古代ギリシア都市が、アテナイからスパルタへ移行したことが影響しています。このように特定の都市や文化への愛着が、国や社会の進路決定を左右することもあるのです。古代ギリシア語やラテン語は、今なおドイツをはじめ、ヨーロッパ諸国の歴史や民族を知る上で重要な役割を果たしています。2013年にイタリア人の記者が、どのメディアよりも先に、ローマ教皇ベネディクト16世の引退表明を世界中へ報道しました。彼がスクープを取ることができたのは、バチカン市国で行われた枢機卿会議に同席した記者の中で唯一、ローマ教皇の漏らすラテン語を理解できたからです。まさにラテン語が役に立った例だと言えるでしょう。グローバル化の重要性が問われる今、英語や現代社会だけではなく、古い言語や過去について学ぶことで外国や世界をより深く理解できるのです。

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曽田 長人教授経済学部 国際経済学科

  • 専門:地域研究
  • 掲載内容は、取材当時のものです