海洋生態系には、陸上と同様に食物連鎖のピラミッドが存在します。ピラミッドの一番下は、植物プランクトンや藻類等の全ての生物生産の基礎になる「一次生産者」、その上にそれらを食べる動物プランクトンや魚、海鳥、クジラ等の「消費者」で構成されています。互いに作用し、安定を保つこのピラミッドは、地球規模の環境変化が起きると不安定となり、連鎖的に大きく崩れてしまうことがあります。この時に海洋生態系にどのような影響が出ているのかを調べるのに最適とされるのが、最高次捕食者である海鳥へのモニタリングです。環境変化による影響は食物連鎖を介して増幅され、最高次捕食者に色濃く現れるため、世界中の研究者が行っています。日本でも、ウトウという鳥の世界最大繁殖地である北海道・天売島で、1960年代よりフィールドワークを行っており、唯一の長期のモニタリングとなっています。ウトウは繁殖地である巣穴で雛を育てており、育雛期に雛の体重を5日ごとに調べたり、親鳥が雛に運ぶ餌を1週間ごとに採取してその変化を調べたり、と地道な調査を行っています。しかし、その長年にわたる緻密な調査・研究から、対馬海流という暖流の北上する時期により、雛の餌の種類が年によって変化していること、それが雛の成長具合や、その後の繁殖成績にも大きく影響していることが明確に判明しました。このように地道なモニタリングであっても、得られるデータの積み重ねには科学的な価値が隠れており、海洋環境と生態系の関係が明らかに見えてくることが分かります。

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伊藤 元裕准教授生命科学部 生命科学科 フィールド動物科学研究室

  • 専門:野生動物の行動生態と地球環境や人間社会との関係
  • 掲載内容は、取材当時のものです