生物は、代謝によって外部から取り入れた物質を生体内で変化させ、エネルギー物質を生産し、温度変化や乾燥といったストレスへの耐性を得るための制御物質を作ります。特に植物は、根を土に下ろすとその場から逃げられないため、毒性や刺激成分を持つカフェインやソラニンといった構造物質を生産し、環境や外敵から身を守っているのです。私たちが身近に嗅いでいる植物の香り成分も、代謝によって作られています。その仕組みは、香り成分の「ケイ皮酸」を作る代謝経路を植物が共通して持っており、そこから、物質を作り分ける酵素を持っている遺伝子によって、植物の種ごとに香り成分が変化し、別々の香りを作り分けることができるのです。成分について研究する際には、生体内で化学反応を起こしている酵素物質などに注目することで成分生産の仕組みが見えてきます。また、香り成分の機能を考えることで、防御物質、忌避物質として働いているのか、どんな利点があるのかなど、その成分を作る理由が何かも分かってきます。例えば、桜餅の塩漬けの葉に使われている大島桜の葉のクマリンという成分は、通常の葉の状態では無臭ですが、塩漬けにすると甘く香ります。このように組織に少しでも傷がつくと香ってくる、つまり外敵やストレスを受けると防御物質として放出される仕組みが備わっているのです。化学物質の性質や、それを作る能力を利用して、生き残ってきた生物について考えるためにも、化学と生物を別々に捉えず、混ぜ合わせて考えることで、生命現象を面白く楽しく研究できることを学びましょう。

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清水 文一教授生命科学部 生物資源学科 生物機能調節化学研究室

  • 専門:植物の二次代謝産物の生合成とその機能
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