脊椎動物の心臓には「1心房1心室(魚類)」「2心房1心室(両生類)」「2心房2心室(ワニ類)」「2心房2心室(哺乳類)」があります。そして、水中から陸上へと生活環境の変化に応じて、心臓の形を単純な形から複雑な形へと変化させてきました。これは陸上生活に適応するために、進化の過程で、心循環器系を発達させてきたからです。私たち哺乳類の心臓は「2心房2心室」ですが、胎児期の発生段階からこの形で固定しているのではありません。例えばマウスの心臓の変遷を見てみると、受精後7.5日では単純なU字型ですが、8日目に1本の管になり、10日目に心房と心室に分かれて、12日目以降には「2心房2心室」の形になります。このように哺乳類の心臓は発生過程においても、単純な形から複雑な形へと変化しているのです。同様に心臓から各組織へ血液が運ばれ、心臓に戻ってくる血液循環システムも、発生過程において変化します。例えばワニは、酸素が少ない環境に適合するため、肺をバイパスにできる血液循環システムをとっています。これは他の爬虫類と異なる特殊なシステムのように見えますが、実は人も母体の中にいる胎児期には酸素が少ない環境にあるため、肺呼吸ではなくこのシステムをとっています。このように「2心房2心室」の最終的なスタイルができるまで、人の心臓はその時の環境に合わせて、形や血液循環システムをダイナミックに変化させているのです。心臓の変化がどのように起こるのかを理解することは、人の先天性心疾患の発症原因や病態を考える上で非常に重要だと言えるでしょう。

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小柴 和子教授生命科学部 生命科学科 動物発生システム研究室

  • 専門:心臓の進化発生・再生に関する研究
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