ゲーム理論とは、将棋で対戦している時のように「相手の出方を予想しながら行動する状況」を分析する理論です。ゲーム理論では、ゲームの参加者は「自分の利益を最大にすることだけを考えて合理的に行動する」と仮定しており、この理論を学ぶことは、「利己的で合理的な人間」の立場で考える訓練になります。それでは、ゲーム理論を学ぶと学習者本人は利己的になるのでしょうか?このことは国内外で数多くの研究結果があり、断定的な結論は得られていませんが、私が大学で「ゲーム理論履修中の3年生」と「ゲーム理論履修前の1年生」を対象に行った公共財ゲームのアンケート結果をみる限りでは、ゲーム理論を学ぶと利己的になる可能性があるといえるかもしれません。しかし、「利己的で合理的な人間」が選ぶであろう、とゲーム理論が予想する行動を、実際には選ばない、とアンケートで回答した人が少なくなかったことに、むしろ注目したいと思います。現実の社会での「利己的かつ合理的」ではない人間の存在は、一方ではゲーム理論の限界を示しており、他方で、行動経済学という分野の重要性を示しているとも思います。行動経済学は、完全利己的・完全合理的な人間像を否定し、実際の人間の経済行動を考察しようとしています。大学で経済学を学ぶみなさんには、このような比較的新しい分野にも興味を広げて学んでいってほしいものです。

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鮫島 裕輔教授経済学部 経済学科

  • 専門:経済学、理論経済学
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